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くわぽんのつれづれ日記

思うが侭、つれづれに書いています。ほぼ、毎日更新中!!

再生した地球にて(2) 第七章

第七章 一番いやな後始末

ユールは、夕方には、もう動き回るのには支障が無いくらい回復していました。
「ルナ、丁度良かった、明日から掃討作業に入る。」
「ムーンの監視情報は確認しています。今現在、五つのグループに分かれているようです。」
「あと、集められるだけのルナとアルテミスを集めたい。どうすれば良い?」
「治安維持ですか?」
「そう、選挙までだな。イゾルデには王都に戻って王への報告と必要な人員の手配を頼んだが、足り無いだろう。ルナフォーの飛行機を使って貰う事にしたが、時間もかかるしな。」

私の経験からすると、このユールは規格外です。白の時は身体の動かし方も知らなかったのでしばらくベッドから起き上がる事も出来なかったほどです。会話も時間がかかりました。
でも、赤のユールは生まれた瞬間から両手利きで、日本語だけなら会話も出来て、知識も判断力も十分に備えているのです。

「・・・第二級 優先命令を発動する事を提案します。」
私はしばらく考えてから回答しました。
「するとどうなる。」
「ルナの・・・兄弟の各(おのおの)の判断で、特級、第一級の命令に相当する活動中でないものが集合します。ルナワンは第一級命令で学園に釘付けですが、そのほかの半数程度が集まると思います。」
「ドイツのルナに動かれると困るが。」
「動くなと指示を出せば良いと思います。もっとも、動かないと思いますよ。王への情報パイプ役が第一級命令相当と判断するはずです。」
「その命令を出すにはどうすれば良い?」
「私に、『第二級 優先命令を発動する』と宣言すれば終わりです。」
「第二級 優先命令を発動する。」
「はやっ。」
思わず、笑ってしまいました。
私は、ムーン経由で全ての兄弟に命令を伝達します。町の治安維持、元町長への対応、選挙の準備、実施。
ムーンから最長一ヶ月の活動期間が提示されました。一ヶ月間持ち場から離れられる者だけが集まる事になります。
直ぐに回答が来ました。
「回答が来ました。ルナ五人、アルテミス一五〇人、治安部隊セレネ五〇人が到着します。」
追加の情報がどんどん来ていますので、ユールに伝えていきます。
「ルナ五人の到着は明日、アルテミスは一週間以内に全員集まります。セレネの到着は三日後です。私以外の兄弟は正装の簡易鎧を身につけて集まるはずです。」

「セレネって何だ。聞いていない。」
治安部隊セレネは警察官の能力と判断力を訓練されたアルテミスです。と言っても、武装警察程度の能力です。ムーンの配下にいて、普段は休眠状態になっています。休眠状態の寿命は二五〇年活動状態で二〇年。休眠からの覚醒は一週間かかります。どうやら、今回の最初の騒ぎで覚醒作業に入っていたようですね。既に、月から発進しています。
私は詳しく説明しました。

「わかった。明日、ルナ二人に元町長の身柄確保と財産の差し押さえを指示してくれ。もし、身柄確保に向かう前に手に持てる程度の財産を持って逃走を試みるようならそのまま逃がせ。馬車などを使うようなら泥棒として逮捕しろ。」
「分かりました、人選は相談して決めておくように伝えます。」
「イゾルデが戻り次第、選挙の公示をする。選挙が終わるまで町の機能が維持されるようにして欲しい。」
「では、ルナの一人を町長代行に指名して町の機能を維持しましょう。」

「それと、フランス語を覚えたい。辞書ってあるか。」
「アルテミスに聞いてみます。・・・一時間後に持ってこれるそうです。」

アルテミスが辞書を持って来たら、先ず、発音記号の読み方を聞かれ、いくつかの単語の意味を聞かれました。その後、一時間、黙って辞書を読んでいたユールが顔を上げると、フランス語で
「良し、辞書に書かれている内容は覚えた。後は今の言い回しを覚えれば完璧かな?」
と話し始めたので、私はびっくりして目をぱちくりしてしまいました。
「た・・・たぶん。」
そう答えるのが精一杯でした。私は言語モードをフランス語に変更しました。

「服を買いに行くぞ。」
「白の服は気に入りませんか?」
「この服は、着るのが面倒くさそうだ。それに、修復がまだ終わっていない。時間がかかるようだ。」
確かに、燃えてしまった部分の修復は殆ど終わっていないのでローブの下は片方の肩を抜いた様な状態になってしまっていました。

宿の人に服を買えるお店を聞いて出かけました。
服屋に着くと、ユールは動きやすそうな赤と黒のズボンと上着のセットを選び、私は試着を手伝いました。ローブを脱いだユールは、もう黒髪が肩までのびでいました。目で見る分には、傷は完全に消えていました。
「うん、気に入った。これにしよう。あと、履き物も欲しいな。」
ユールは、試着した服を着たまま、ローブを私に投げると、試着室を出て履き物の物色を始めた。気に入った物を見つけると、片っ端から試着して行きます。着る物に頓着しない白のユールには見られない行動です。私は、選んだ物の代金を払いながら後を追いかけました。

髪飾りまで買って身だしなみが整うと、ユールは落ち着いたように
「帰ってご飯を食べよう。」
と言いました。

夕ご飯を食堂で食べながら、ユールは明日の予定について話し始めました。
「明日のライカンスロープ掃討についてだが、ルナは近くまで案内してくれれば良い。後は俺がやる。」
という突然お申し出。意図が汲めず困っていると、
「お前は離れたところで待っていてくれ。」
と説明ともつかぬ説明です。
私は反論してみました。
「私達の間に秘密は意味がありませんよ。」
「理解して欲しいのだが、俺の仕事は綺麗な物では無い。見て欲しくないというのが本心だ。隠したいのでは無い。」
「私にも見て欲しくないと?」
「・・・人間としての本能の部分だな。理由も知って欲しくない。」
私は、本当の理由を推し量ろうとしましたが、該当する事柄が多すぎて特定出来ませんでした。
「・・・分かりました。指示通りに。」

その翌日、ユールは白のユールの為に用意されていた武器を身につけ、私の案内でライカンスロープの集落を巡りました。
確認されているだけで五ヶ所。高高度無人偵察機の解析では拡散は確認されていません。
早朝、朝ご飯を食べる前に宿を出て、私はお水と焼き菓子を用意していましたがユールは何もいらないと言って手ぶらで宿を出ました。
最初の集落まで二時間ほどでしたが、五〇〇メートル手前で、
「後は気配で分かるからここまでで良い。」
と言って、森の中に入っていきました。程なく、白い閃光と高出力イオンバーナーで肉を一気に炭にしたような臭いと、僅かな煙が立ちました。ユールは、「終わった、次」と言葉数もすくなに次々と回っていきました。三回までは、それで済んでいました。

昼過ぎです。最後から二番目の集落は、畑の真ん中にいました。五匹の小さな集落だとムーンは情報をくれていましたが、残念ながら私にも全体の構成が分かってしまいました。雌の成体が二匹、まともに歩けない程小さな子供を含む三匹の幼体、成体の一方は妊娠しているようでした。
私の動揺した気配が相手に察知されてしまいました。一匹の成体が攻撃態勢をとっています。
「ルナ、もう良い、急いで町に戻って、ルナフォーのアルテミスに痕跡の回収を依頼してくれ。」
私は、ユールがこの群れも殲滅する気なのだとわかり、思わず叫んでしまいました。
「いけません。他に方法は無いのですか?」
ユールは、静かに、残念そうに告げてきました。
「成長すれば、一匹で町を全滅させられる恐れがある。町に住む人類がこの生き物に対応出来るようになるまで十五年はかかるだろう。その間にいくつの町が滅ぶと思う。出てくるのが早すぎたんだ。元は同じ人類だとしても、もう、同じレールには戻れない。議論の余地も憐憫の情をもよおす余裕も今の俺達には無い。・・・いけ!!」

私は、逡巡しましたが、反論の余地が無い事は最初の戦いの時に理解していたはずでした。感情に流されないようにと心に言い聞かせて、町に向かって走りだしました。後ろで何が起こっているのか、考えないように、振り向く事も、閃光が目に入る事も嫌うように真っ直ぐに門を目指して。
・・・でも、町に着く前に、目から涙があふれてきていました。どんな感情によって涙が流れているのか、私には理解する事が出来ませんでした。

私は、門に戻ると、ルナフォーのアルテミス達に私達がライカンスロープと戦った痕跡の内、弾丸やナノマシンなど有るべきでないものを回収するように指示しました。

ライカンスロープの弔い方については、元々同じフランス人である事を町の人に説明し、何とか教会の墓地の片隅に埋めてもらえるように話が通りました。

ユールは夜まで戻りませんでした。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/11/29(金) 13:10:19|
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