話は若干長かったのですが、簡単に要約しますと、
元々、このシェルターは、政府系の研究機関が作ったものだそうです。そのため、多くの研究者とその家族、縁のあったものが乗り込みました。
シェルターが稼働してから十年も経たない頃、細菌の研究者が「危険なキメラウイルスが漏洩してしまった。直ぐにワクチンを投与しないと危険だ。」と言いだして、キメラウイルスで死亡した動物の死骸を見せたそうです。慌てた人々は、その研究者の話を信じ、ワクチンの投与を全住人に行いました。ところが、その直後、研究者は自殺。しばらくすると、異形の子供が生まれるようになりました。その後で慌てて、自殺した研究者の研究記録と手記から自分たちに投与されたのが遺伝子操作用のレトロウイルスで有る事が分かったそうです。
既に時遅く、人口の三パーセントが悪性新生物(癌)や血液異常(白血病など)で死亡し、生き残ったもの達も子孫が異形のものとして生まれてくるようになったそうです。
そして、その時、二種類の子供が生き残りました。脳の容量が小さく運動能力に長け、凶暴な種と自分たちのようにほぼ人間と同じもの達でした。
凶暴な種は、成長しても八歳程度の知能しかなく若干言葉が不自由でした。そして、いつしか同じ種で群れを組んで広場を占拠するようになりました。彼らは、もう一方の種が育てた家畜や食料を奪いながら生活し、増え続け、六十年ほどが経過し、シェルターの扉が開いた途端一人残らず出て行ってしまったそうです。
彼ら(ライカンスロープ)の存在におびえながら暮らしていた者達は、急いで彼らの暮らしていた辺りを清掃し、扉を閉めようとしていたようです。
しかし、扉の蝶番が壊れていて、上手く閉まらず困っていたところにユールが現れたという事でした。
「ユール、ルナフォーのアルテミスがこちらに向かっています。」
私は、感情もなく報告しました。
「ルナ、貴方のオートキャノン二門を洞窟の入り口の両脇に設置して下さい。念のため、アルテミスが来たらバリケードも設置しましょう。私達は、一通り調査したら町に戻ります。外の世界の状況を彼らに説明して下さい。」
「分かりました。一度通信の為に外に出ます。」
「はい。お願いします。」
私との会話が終わった後、ユールはフォーブルさん達に向き直り、
「お話ししておかなければいけない事があります。一つは、皆さんを外にお連れ出来るのは、防疫とワクチン投与を終えた後です。外の世界の細菌に対する耐性をつけて頂く必要があります。それと・・・申し上げにくい事ですが、皆さんが外の世界に受け入れられるという事をお約束出来ません。ここから出て行った者達が・・・酷い悪さをし無い事を祈りましょう。」
と言いました。
フォーブルさん達はある種あきらめにも似た表情とともに手を合わせ祈る様にしながら、
「勿論、この姿で受け入れられない可能性がある事は最初から判っています。寛容な人々のいる地を探すつもりです。」
と呟くように語り、涙を流していました。
短い時間で、彼らにも表情がある事が分かってしまいました。私って凄い?
私は外に出ると、衛星軌道を回っている私のオートキャノン三門の内二門をこの近くに落下させるように指示しました。コアの計算精度からすると、目標地点の半径五メートル以内には落としてくれるでしょう。それなら、私でも移動出来ます。
後は、アルテミスが到着してからの作業内容をルナフォーに伝えました。
これで当面の私の用事は終わりです。
指示を出し終わると、丁度オートキャノンの大気圏突入の軌跡が目に入りました。休む暇はあまりなさそうです。
オートキャノンは、直径一.五メートル程の真球です。単体で大気圏に突入する能力があります。しかし、戦闘態勢になると、衛星からエネルギーを受け取る為のアンテナや砲身が生えてきます。オートキャノンは通信機でもあるので、ここからアンテナを伸ばせばシェルター内でも通信が出来るようになります。
私は、エネルギー受信用のアンテナを展開させると、急いでアンテナを取りだし、ケーブルをシェルターの中まで伸ばしました。
しばらくすると、宇宙船が到着しました。宇宙船は初代のスペースシャトルよりも少し小さいものですが、大気圏突入時には大きめの流星くらいの軌跡は残してしまいます。光も見えるでしょう。そのため、百五十キロの彼方で大気圏突入して大気圏内を低空飛行でやってきたようです。
二十五人のアルテミスが、慌ただしく調査と遺伝子解析、ウイルスの検査・分析を行っています。
その日の夕方、ユールは一通りの調査を終えたらしく、宇宙船内で食事をとり、翌朝に町に戻るよう段取りを始めました。その時、ムーンから緊急の情報がもたらされました。
ライカンスロープの十匹ほどの集団が町の門から三キロの地点で町長の軍隊と交戦していると言うものでした。ユールは手を合わせて祈るように目をつむっていましたが、軍隊が全滅しライカンスロープが引き上げたという情報が届き、ユールが自分を責めるように項垂れています。
この期に及んでも支援を受け入れるという発言は聞けていません。
「ルナ、今回の戦闘をどう思いますか?」
ユールは、何とか冷静さを保っているという声で聞いてきました。おそらく、自分の考えが正しいかどうかを確認したいのだと思いました。そして、私は、その答えを非常に高い確からしさを持って答える事が可能です。しかし、答えるかどうか躊躇していました。
「ルナ、警戒せずに思った事を教えて下さい。」
念を押されてしまいました。私は、二つの答えを用意していました。
「先ず、今回の戦闘に関してはっきりしている事が有ります。ライカンスロープは訓練された軍隊に対していきなり戦闘を仕掛けました。記録を見る限り躊躇なく数にして四倍の敵に先制攻撃を仕掛けています。そして、不意打ちでは無く、洗練されていないとはいえ鎧を着た軍隊を皆殺しに出来る事を確認して引き上げています。」
言いよどむ私にユールは優しく
「続けて下さい。」
と諭しました。
「一つには、町にはもうまともな戦力はありません。そして・・・もう一つ・・・明日の朝、夜明け後三時間以内に総攻撃が行われる可能性は、99.98パーセントです。」
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2013/10/01(火) 12:34:27|
- 再生した地球にて
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