第四章 ネスト
翌朝、私達はネストに到着していました。途中、ユールが私を負ぶって風のように林の中を走り抜けたのです。かなり大回りをしましたが、驚くほど早くネストに到着しました。
ネストの入り口は、丘の中腹の木を数本切り倒し、歩きやすいように足場を作り、穴の周りに木の枠を組んでから穴を掘って有りました。この丁寧な仕事は、アルテミスとルナフォーの手による物でしょう。
木の枠にはかつて封印であった透明の樹脂がまさに引き裂かれたようにぼろぼろになって残っていました。
私達は入り口から少し離れたところで昨日のお弁当の残りを頂いてから探索の準備を始めました。と言っても、簡単な後片付けと、装備の確認くらいです。
ユールは、杖の先端に明かりをつけ、躊躇なく、杖をかざしながら穴の中に入っていきました。
私も後に続きます。
私は、直ぐに違和感を覚えました。綺麗すぎる。誰かが後片付けをしたように。
停滞型コロニーの入り口まで来て私の兄弟が持ち込んだはずの機器の残骸がない事に気が付きました。ライカンスロープが片付けたのでしょうか?
入り口の扉は開いたままになっていました。
中の構造は他とそんなには変わらないはずです。三層程度の生活空間があって、一番上に広場があるはずです。一番下は農業と牧畜区画になっていて、生活空間はその間にあるのが普通です。そして、入り口は一番上の層に続いているのです。
「ユール、防疫をしていません。この先はまずくないですか?」
「そうですね。一度空の見える場所でローブを防疫モードにして完了したら戻ってきて下さい。私は、先に中の様子を見ておきます。」
ローブには休眠状態のナノマシンが織り込まれていて、必要に応じて様々なモードに変化させる事が出来ます。しかし、変化させるときは人工衛星か学院のルナなどムーン配下のコンピュータと通信出来る必要があります。
私は空の見えるところに戻ると、ローブを防疫モードにしました。しばらくすれば、私は滅菌され、マスクをすれば当面の防疫・・・つまり、停滞型コロニーの中に危険な細菌を持ち込まないですむ状態になります。
ユールは常に滅菌状態なので問題ないらしいです。
滅菌中にルナフォーから通信がありました。ルナフォー配下のアルテミスをありったけここに送ったと言う物でした。必要になりそうな機材とともに。その中には遺伝子解析キット四十セットも含まれています。防疫機材五セット、今更な感はありますが、ムーンが必要と判断したそうです。到着まで二時間。その間に、障害になりそうな物を排除して防衛出来る状態にしておかないと。アルテミスは非戦闘員ですからね。
しかし、大気圏突入用のカーゴでは無く、宇宙船で大気圏突入とは、町から見えてしまいますね。仕方がないのかな。機材も多そうですからね。
防疫が終わった私は、状況を説明する為にユールの元に急ぎました。すると、ユールは既に中の住人と接触していました。一番の面白そうだと思っていたイベントに立ち会えなかった事を残念に思いながら近寄っていくと、話している相手は顔が犬っぽくて全身に毛が生えており、耳は人間と同じ位置にありますが・・・とがっています。耳の位置からすると、大脳の容量は十分にありそうです。ライカンスロープの脳の容量は人間の八十パーセントほどと推定されていますからね。
そこに、さらに同じような人々が十人ほど駆けつけてきました。
「外の人間が来たというのは、貴方ですか。」
「はい、灰色のユールです。月の機関の者です。」
「灰色のユール?まだ生きておいでだったのですか?外は時間が経過していなかったのですか?」
「いいえ、外は、八百年程経過しています。私が死ねなかっただけです。」
「そうですか。停滞型コロニーを発表された当時も三百歳と噂されていたそうですね。申し遅れました。このシェルターの責任者のフォーブルです。このシェルターの基本設計は貴方の手によるものだと伺っています。」
「まぁ、そうなのですが・・・その事は追々説明します。まずは、ここから出て行った百五十ほどの個体について伺いたいのと、あなた方の姿が変わってしまった理由について伺いたい。」
・・・
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2013/09/26(木) 12:51:15|
- 再生した地球にて
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