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くわぽんのつれづれ日記

思うが侭、つれづれに書いています。ほぼ、毎日更新中!!

再生した地球にて(2) 第三章 (3/3)

そんななんてことない会話で盛り上がっている間に森の中に入り、獣道を通って堰に到着しました。堰は小さな滝になっていて比較的大きな音を立てています。
そして、相変わらずこちらの様子を伺っている人はちゃっかり付いて来ています。しかも、森に入ってから、かなり近い場所を付いて来ていました。

ユールは、森に入ってから畳んでいた傘を広げて地面に立てかけるように置き、傘の陰に敷物を広げお弁当を並べ始めました。
堰を流れる水の音がうるさかったので、皆で近付いて座りました。籠の中にはカンテラもあって夕暮れも近付いていたので火をつけて明るくして食事を始めました。

ユールはまじめな顔になり、
「本題に入ってよろしいでしょうか?」
と切り出しました。堰を流れる音の御陰で追跡者に会話を聞かれる心配はありません。そして大きな傘の御陰で顔色や唇を読まれる心配もありません。傘を覗ける場所は川の中だけでしょう。
すると、イゾルデさんは、
「その前にこれをお返しします。ルナさん。」
といって、白いハンカチを取り出しました。
「良かったです。これはお気に入りなのです。去年自分で作りました。おばあちゃんの形見と言うほど古い物ではありません。」
そう、あの時イゾルデさんに渡したハンカチです。
「そうなの、ごめんなさい。でも、ドイツでは流行では無いデザインだったのでちょっと失礼な事言ってしまったかしら?」
「いえ、気にしていません。」
本当は少し気にしています。自分ではそんなに古くさいデザインだとは思っていないのです。
ユールは、まじめな顔のまま、
「実は、私達の予想を超える緊急事態になってしまっています。」
「緊急事態?あなたたちの予想を上回る事態になっているの?」
さすがにイゾルデさんも動揺しています。

私達は簡単に事態を説明しました。
町の軍隊の練度では全員でかかっても一匹も仕留められないであろう事、数が予想以上に多かった事、そして、相手の目的がおそらく住み処の略奪で一匹でも塀を越えれば町が全滅する恐れがある事。

イゾルデさんはしばらく考えた後、ゆっくりと質問した。
「それで、あなた方が準備している支援はどのような物なのですか?」
「正直、手詰まりです。強力な兵器は準備していますが、塀の上に置かないと効果がうすい上に・・・一斉に攻められたら完全に火力不足です。後は、私達二人で肉弾戦を繰り広げるくらいでしょうか。」
ユールは、川を眺めながら呟くように言った。
「絶望的な言葉に聞こえます。」
イゾルデさんの言葉は率直な感想でした。
「町の人々が協力的でない事はある程度予想していた事なのですが、こちらの協力の申し入れを断られるのはかなり辛いですね。各国の王との協定上、私達には強制的に支援する権限はありません。町長が支援を受け入れると言ってくれないと表立っては何も出来ません。」
「成る程、それで私に何をしろと?」
さすがに王の側に付いている貴族だけあって話は早そうです。
「明日の朝、荷物を積んだ幌馬車を準備します。最低一台。出来れば四台。それを門の外に置いておいて欲しいんです。」
私は、驚いた。確かにアルテミスに幌馬車を四台準備して置くように言っていましたが、お願いするのはその事だったですか?説得では無く?
イゾルデさんの返答もある意味気の抜けるものでした。
「そのあからさまに怪しい荷物を門の外に置いて動かすなと。難しい問題ですね。」
「小細工が必要ならある程度は行いますが。出来れば、王都から貴方宛の荷物だから動かすなとか言って聞いて頂けると有り難いですね。」
イゾルデさんはしばらく悩んだ後、
「その件は何とかします。でも、一台だけにして下さい。」
と返してきました。ユールは残念そうに
「分かりました。一台準備します。」
と返事し、黙り込んでしまいました。

「他には?」
イゾルデさんは、急かすようでもなく、ゆっくり時間をおいてから質問してきました。
ユールは、静かに、
「以上です。」
と返しました。イゾルデさんは、
「説得でも頼まれるのかと思いました。」
とのたまいましたが、ユールは、当然というように、
「頼んでも断るでしょう?それに、必要だと思えば、貴方は頼まなくても説得してくれるでしょう。」
「まあね。」
イゾルデさんは凄く素っ気なく、そして容赦なく頷くと、
「それに私はまだ、あなたたちの予想が外れて切れる事を祈っているのよ。」
と続けました。

ユールは、両手を合わせると、
「私達からは以上です。後は質問をお受けします。」
とにこやかに言いました。
「では、表にでられない間、何をされるつもりなのか伺っても良いですか?」
「ネスト、私達がそう呼んでいる彼らが中から出てきた停滞型シェルターを調べに行こうと思います。」
「森の中で彼らと交戦する予定は?」
「有りません。情報収集の為に斥候程度は相手にするかも知れません。」

・・・

しばし、会話が続いていましたが、その遣り取りも終わりが近付いてきました。
「最後に、支援を要請したいときはどうすれば良いですか?」
「馬車に向かって『支援を受け入れる』と言って下さい。」

私達は後片付けをして、町に戻りました。
もう暗くなっていましたので、イゾルデさんにカンテラを渡し、門から漏れる町の明かりが見えるところで分かれました。

明日の夜明けを待って馬車は門の前にもたらされるでしょう。

ユールはその場に傘を置き、
「アルテミスに回収の指示を。」
と言って森に向かって歩き始めました。

私達は、ムーンの支援を得て群れの進路に交わらない道を通りながら、夜を徹してネストへ向かいます。私達の足で向かえば明日の昼を待たずにネストに到着出来るはずです。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/08/12(月) 12:00:00|
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