ユールは、諦めましたというように、
「私達は、支度をしたら引き上げます。」
といって、町を出て、飛行機に戻り、武装を始めました。
ユールは険しい顔で、
「待ち合わせ場所と時間は?」
と質問してきました。
「門の西側で十五時です。彼女は毎日その時間、門の外を見回りしているので、不自然ではありません。」
私は先方に伝わったはずの約束の場所をユールに伝えました。ユールは、逡巡した後、
「理解しました。アルテミス、お弁当の準備をお願いします。夜の森までピクニックです。」
と指示を出したので、私は周囲の地形を検索して
「おあつらえ向きの小さな自然の堰があるので、そこまで行きましょう。所要時間は一時間少々です。」
と情報を提供します。
「良いですね。そうしましょう。」
ユールは、大きい日傘を取り出しました。親骨の長さが一メートルはある持ち歩くには大きな奴です。でも、実は持ち歩き用で、布は三重構造、外は白い布ですが、真ん中は銀色で光を通さないだけでは無くて、防弾性も備えるとんでもない奴なんです。今の時代の地球上の武器でこいつを貫ける物はありません。でも、武器にはならないのでとても中途半端なんです。
私は自分のニトロガンを手に取って、
「指定の弾種はありますか?」
と、聞いてみました。
ユールは、ゆっくり考えてから、
「テフロン弾を二十と、念のためシルバーチップを。」
と返してきました。
「シルバーチップ(純銀の弾丸)?あの扱いにくいの、必要ですか?」
「必要でしょう。あと、ロングバレル(延長砲身)を忘れないように。」
「シルバーチップで狙撃なんて経験無いですよ。」
「使わなくてすむ事を期待しましょう。」
私は、狙撃用にライフル弾二十発、貫通性に優れたテフロン弾とシルバーチップを二十発ずつ装填しました。
その後、ユールは、アルテミスを呼んで、近くの町で馬車を手配して明日の朝までに戻るように指示していました。指示の内容は非常に複雑です。簡単に言うと、町まで半時ほどのところに空の馬車と御者が出来るアルテミスを待機させておくようにと言うものですが・・・。
私達はゆっくり準備をして、約束の場所に向かいました。
ユールは杖を地面に突き刺し、日傘を開いて杖に上手にのせ、自分の立つ場所を大きな日陰にすると、塀に背中を預けて座りました。
私もユールの隣に腰を下ろしました。
肌寒い風が吹き抜け、ゆっくりとした時間が流れます。ローブがなければ凍えているかも知れません。
私はユールに小声で、
「こちらの様子を伺っている人がいますね。」
と伝えてみました。すると、
「気が付かない振りをして下さい。」
と素っ気ない返事。気が付いていたですか?結構遠いですよ。
しばらくするとイゾルデさんがやってきました。
「あら、まだいらしたんですか。もうお帰りになったかと思いました。」
イゾルデさんはあくまでも、知らない仲を演じるつもりのようです。
「えぇ、折角なので、ピクニックでもしようと思ったのですが、ルナと二人だと代わり映えしないので、誰か付き合ってくれないかとここで誰かが通りかかるのを待っていました。」
と言い、ユールはローブの下からアルテミスの作ったお弁当の入った籠を見せました。
「何処まで行かれるのですか?」
イゾルデさんは相変わらず素っ気ない質問。
「この先に自然の堰があるので、その辺りまで行こうかと考えていました。」
私は森の方を指さします。
イゾルデさんは、少し考えてから、
「んーお付き合いしましょうか?でも少し寒いかしら。」
と返してきた。ユールは、待ってましたとばかりに、ローブを一枚取り出し、
「『灰色の』ユールのローブの本物ですよ。身につけた事を末代まで自慢出来ます。」
と差し出した。イゾルデさんはさすがに声を出して笑ってから受け取って羽織りました。
私達は、森に向かって歩き始めました。ユールは傘をたたむ事もなくさしたまま歩き始めました。
「森は危なくないんですか?例の生き物がうろついていると聞いていますが。」
イゾルデさんはもっともな質問をしてきた。ユールは、安心させるようにゆったりと
「まだ、この辺りには来ていません。来ていたらさすがに誘いません。それに貴方一人なら私達二人でどんな状況でも守り切れます。」
「まぁ心強い。」
何だろう。態とらしい会話なのか本気の会話なのか区別がつきません。
少し時間をおいて、ユールが話し始めました。
「そう言えば、イゾルデさんはドイツの方なんですか?ドイツ語もフランス語もあまり上手では無いとお見受けしますが。」
うわぁ、なんか失礼な会話になっていませんか?大丈夫ですか?
「あら、慧眼ですね。実は母の出身はどちらでもないんです。何処だと思いますか?」
あれ?普通に返してる。
「お名前から判断すると、イングランドだと思います。昔の物語に出てくる名前ですね。」
「正解です。」
あれ?会話が弾んでる。こういうときは放っておきましょう。
でも、先ほどこちらを伺っていた人は、こっそり付いて来ているようですね。
「家では英語を話していたので、ドイツ語と英語は普通に話せていると思っていたのですが。」
「微妙な癖がありますね。英語訛りと言いますか、そんなものを感じます。」
「さすがに旅を続けられていると違いますね。その辺りは自分では気が付かない物で。」
「でも、今の時代、イングランドからドイツに移り住むというのは、お母様は随分変わり者だったのですか?」
さすがに歩調が乱れました。失礼にも程が有る様な、止めた方が良いのでしょうか。
「ははは、そうですね、変わり者かも知れません。ロンドンの商家の娘なのですが、王都の貴族との交渉でドイツに来て、交渉相手に一目惚れしてそのまま駆け落ち同然でドイツに残ったそうです。」
笑って話してます。ユールの人柄でしょうか?普通なら喧嘩になりそうな質問だと思うのですが・・・。まぁ、放っておきましょう。
「ロマンチック(ローマ的)ですね。イングランドの方で他国の方に一目惚れした方の話を聞いたのは初めてです。フランスの男性が東洋の女性に惚れたと言うのと同じくらい珍しいと思います。」
そうですね、今の時代はどの国も閉鎖的です。何故かフランスは東洋人を毛嫌いしていますし、イングランドの人は滅多に島の外に出ようとしません。イングランドの造船技術は世界一なんですけどね。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2013/08/07(水) 18:43:44|
- 再生した地球にて
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