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くわぽんのつれづれ日記

思うが侭、つれづれに書いています。ほぼ、毎日更新中!!

再生した地球にて 第一一章

第一一章 旅の途中

あれから、もう二十年以上の時が流れた、未だにユールは約束を果たしに来ていない。
俺はお兄さん達兄弟と城の兵士四人と一緒に早瀬川の町に戻った。

あの日のお昼ご飯を約束通り、親父さんの店で摂る為に一人で行ったら、お兄さん達も食事をしていたのだ。親父さんは残念そうなそぶりも見せずに、
「新しい人生の幕開けだ。良い経験になっただろう?」
と行って「がははっ」と笑った。慰められるより嬉しかった。
そして、旅は道連れ、とばかりに一緒に行く事になったのだ。
ユールはその日のうちにヨーロッパに旅立ったそうだ。

その一年後、俺は、木こりの娘と結婚した。

さらに一年後、俺の元に大きな荷物が届いているというので大八車を借りて学院の売店に行ったら、大きな木の箱が三つ、中には色々な木で出来た水車や歯車、軸や軸受けの模型が入っていた。
これらがその後の俺にとってとても役に立った。

そして、一枚の手紙、内容は一言

「私達は元気です。」

と書かれていた。

お兄さんとは今でも交流がある。巡業で早瀬川に来ると必ず顔を出してくれる。
妹たちは結婚してしまって、別の兄弟やお母さんと一緒の時もあったが、今はだいたい奥さんと子供達と一緒だ。

俺は、何だかんだいって、各地を回って水車建設の手伝いと講義に大忙しだった。その甲斐もあって、王から借りた王都で土地付きの家が二軒は買えるほどの融資も殆どが返済を免除された。

今は、丈夫な奥さんと八人の子供達と幸せに暮らしている。
ただ、七歳になる末っ子が、やんちゃ盛りだ。

俺は今、斧をどう改良しようか悩んでいる。
ユールから鋼の作り方はちゃっかり盗んだものの、切れ味の良くなった斧は普通の斧に比べて刃こぼれが酷いと言われているのだ。
悩んで、出来たばかりの斧の刃を立てかけたとき、まさにその末っ子の泣き声が聞こえてきた。
「わーん、何だよぉ、離せよぉ。わーん。」
また、どこかの大人に叱られて連れてこられたんだろう。最近、近所の親父が見かねて引きずってくる事が多くなったのだ。
そう思って立ち上がったとき、作業場の入り口から歌うような女性の声が聞こえてきた。
「貴方は子供のしつけが下手だったのですね。初めて知りました。」
間違いない、何年経っても忘れる事の無い、この声は!!
作業場の入り口に向かって走っていった俺を待ち構えていたのは、

ゴン!!

杖の先だった。
ユールに飛びついて抱きしめようとした俺を、事もあろうか、ユールは杖で受け止めたのだ。
俺は、鼻の頭をしこたまぶって、涙を流しながらしゃがみ込んでしまった。
「酷いよ、ユール。」
「貴方も・・・いいおじさんになりましたね。」
「ユールは・・・本当に変わってないね・・・て言ったら傷つくかな。ごめん。」
「いえ、気にしません。各国の王からいつも言われています。」
俺たちは本当に久しぶりに笑い合った。
「良いから離せよぉ。」
息子はまだ服の首の後ろをしっかりと握られ、ぶら下がっていた。
「おい、またなんか悪さをしたのか?」
と、俺は息子の顔に鼻を近づけて聞いた。
「何にもしてないよぉ。」
いつもの台詞だ。
「女の子をいじめていました。私が注意したら、私におしっこを引っかけようとしました。」
と言ったのはユールの隣に立っているローブを被ったユールと同じくらいの背丈の娘だった。
「ひょっとして、ルナ?」
「はい、お久しぶりです。」
ルナは、ローブのフードを後ろに下ろしながら言った。昔の面影はあったが、美人になっていた。でも、見かけ上、三~四歳しか年をとっていないようにも感じる。
俺は、笑顔を交わした後、
「ははーん、いじめていたのはみぃちゃんだなぁ、お前あの子が好きだもんなぁ。」
と息子に言うと、「そんなんじゃないやい。」と言いながらそっぽを向いた。
ユールが手を離すと、息子は「ばーか、ばーか」と言いながらどこかに走って行ってしまった。

その様子を聞きつけた俺の奥さんが家から顔を出した。
「あら、こんにちは、こちらの方はお知り合い?」
奥さんは、俺に質問した。
「あぁ。昔話した事があるだろう、『ユール』だよ。」
「あぁ、あの!。本当だったんだ、お母様も言ってたけど、信じられなかったのよねぇ。初めまして、武の妻で麻由美です。夫が昔お世話になったそうで。」
麻由美は礼儀正しく挨拶をしてくれた。
「いえ、こちらこそ、日本各地で旦那様の仕事の成果を見ては嬉しく思っているのですよ。お礼を言わなければいけないのは私の方です。良く、旦那様を支えてくれました。お母様はご健勝でしょうか。」
ユールもいつも通り礼儀正しかった。
「お母様はまだまだ元気ですよ。今呼んできますね。」
と麻由美は母屋に走って行った。

ユールは振り返ると、
「今日は約束通り、日本刀を鍛えるところをお目にかける為に参りました。」
「えっ・・・あぁ飛行機の中での!!そんな事忘れてたよ。」
「約束ですから、色々準備してきました。仕事場を二日間ほどお貸し願いたいんです。」
「勿論・・・だけど、今日は久しぶりに会ったんだ、ゆっくりして行ってくれるんだろう。」
「そうですね、今回はゆっくり出来そうです。そうそう、悠太とも仲良くして頂いているそうで、お礼申し上げます。」
「良いよ、なんか他人行儀だな。もっと砕けても良いのに。」
と俺が行ったとき、母が母屋から出て、両手を広げてユールに抱きついた。
「あぁ、ユールさん。お久しぶり。ちっとも変わらないのね。」
「お母様もご健勝で何よりです。ご無沙汰しております。」
「ずっと言いたかった事があるのよ。本当はユールさんが武のお嫁さんになってくれると思ったんだけどね。でも、麻由美さんも良いお嫁さんなのよ、本当に助かっているの。武は人を見る目があるわ。」
「良かったですね。私も自分の事のように嬉しいです。」
「今夜はゆっくりして行ってくれるんでしょう。それにもっと砕けてくれても良いのよ。」
「ふふふっ、親子ですね。タケルさんにも同じ事を言われました。でも、奥様もいらっしゃいますし」
「あら、気にしなくて良いのに。」

「お母様、嬉しそうね。ユールさんに会えて。」
麻由美が俺に耳打ちして来た。
「あぁ、娘時代からの憧れの人だったんだって。俺も最初に連れてきて初めて知ったんだ。」
母とユールは、今夜の夕食を一緒にするとか、色々旅の話を聞かせろとか話をしているようだった。
「『二輪の花の記憶』ね。私も会ったときの為に読んで置けって言われて読んだわ。あの中では、ルナさんが一番のお気に入りだわ。奥ゆかしくって、他人思いで。」
「そこにいるよ。」
俺はルナを示した。
「えっ。」
「どうも、はじめまして、ルナです。」
「本物?本人?」
「あの頃の身体は年老いたので取り替えました。当時の記憶があるという意味では間違いなく本人です。」
「あぁ、本当に無愛想。身体を取り替えられるの・・・本当に人間じゃ無いんだ・・・。」
「えぇ、私の本体の大部分は月にあります。私は、一応、端末と有機頭脳の役割を担っています。」
「よく判らないけど、今夜は夕食を家で食べていって下さい。色々話しを聞かせて下さいね。」
なんだか、女性同士だけで話が進んで俺は置いてけぼりを食らっている感じだ。まぁ、明日からはおそらく俺がユールを独り占めするんだから良いか。

その夜は、お袋も麻由美もユールも料理を造って持ち寄り、盛大な晩餐になった。
嫁に出た娘も、結婚して離れて住んでいる息子もみんな集まった。
その中で末の息子の健太は、何故かルナの膝の上でご飯を食べていた。皆が降りろと言っても降りず、ルナに麻由美や俺の娘達が「重かったら下ろして良い」と言っても、ルナは「別に構いません。」と返したので、そのままになった。
健太は何故かルナが気に入ったらしい。

食事もそうだったが、会話も盛り上がった。
特に、三人で旅をした時の話しで、俺が温泉で気絶したときの話しは、ルナが余計な事を一杯言ったので、たいそう盛り上がった。ついでに、俺は嫁に睨まれた。まぁ、「結婚する前の話しよね。」と言ってもらえて、何とか収まったが・・・。
もう一つ盛り上がったのは、やはりユールとルナの大立ち回りだ。どう凄いのか、俺はあらん限りの言葉を尽くして説明し、ユールは町の見回り役でも有る息子に、「指南して欲しい」とせがまれていた。
時間が進み、食事も終わりに近付いたとき、ユールが明日からの予定を話し出した。
「明日から二日間かけて、私達は刀鍛冶の技術を披露します。これは、学院が教える中でも最も伝承が難しいとされている技術の一つです。健太君、君は明日から見に来ても良いですよ。最後まで我慢してみていられたら、びっきりのお菓子を持って来ましょう。どうです?ルナにも手伝って貰いますから、一日中ルナといられますよ。」
「うーん、仕方が無いなぁ。学校も無いから付き合ってやっても良いぜ。」
と、偉そうに判った風な口をきく健太に、何故かユールは満足そうに微笑んだ。
やがて、楽しい時間も終わりを告げ、ユールとルナは片付けを手伝うと学院の施設に戻って行った。

翌日、ユールとルナは馬車に乗ってやってきた。馬車を引いている馬はさすがにカストゥルとポルックスでは無かった。でも、その子孫に当たる馬らしい。
二人は協力して二つの大きな荷物を下ろした。一つは封印が施してあった。
ユールは、仕事場の邪魔にならないところに封印を施した荷物を置き、
「この中には、今から私が使ってみせる道具の一式が封を切らない限り痛まないように大切に保管されています。貴方や貴方の子供達、孫達が使うときが来たら封を切って下さい。」
と言った。もう一つの箱には、大きな金槌や長細い木の桶のような物など本当の様々な物が入っていた。
しかし、仕事場にあるような物はそのまま使う様だ。

ユールは、健太に「焼き入れ」と「焼き鈍し」を見せた。柔らかい針金が焼き入れする事でパキッと折れるようになり、焼き鈍す事でまた柔らかくなる。
そして、鋼と軟鉄の違いを見せた。堅く刃こぼれしやすい鋼、柔らかく切れ味の悪い軟鉄。
ここから、ユールは驚くべき技術を披露した。
軟鉄と炭を重ね鍛え鋼と軟鉄の層になった塊を造り、それをルナと二人がかりで何度も折りたたみ、何層にもなった刃を鍛え始めたのだ。ユールは、軟鉄と鋼を重ねる事で刃こぼれしにくく、しかし切れ味の良い刃を造るのだと教えてくれた。まさに、俺が斧について悩んでいた事の一つの答えがここにあった。
「この層は、重ねすぎても、重ね足り無くてもいけません。丁度良いところは自分で探して下さい。」
とユールは忠告のように教えてくれた。
健太は途中で眠ってしまったが、
「ここから先は、しばらく刃の形を作る作業です。寝かせてあげても問題ありません。」
と言った。見学していた子供達も最初から最後まで付き合う者はいないようだった。俺は最後まで付き合うと決めた。
刃の形を作る工程にも様々な工夫がある事がよく判った。そしてこれを子供達に伝えるのは俺の仕事だと確信した。

朝になり、健太が起きてきた。それでも、刀作りは休まず続いていた。その時は、丁度、焼き入れと焼き鈍しを繰り返していた。そして、ルナが粘土のようなものを持って戻ってきた。
焼き鈍しが終わった刃に粘土をのせていった。
「健太君。この水に手を入れてみて下さい。」
ユールが焼き入れに使う水の入れ物を指した。
健太は、恐る恐る手を入れた。
「暖かい。」
続いて俺も手を入れてみた。お風呂と同じかそれより暖かいかもと言うくらいの温度。
「昨日の焼き入れと焼き鈍しは覚えていますか?熱した鉄を冷たい水に入れるととても堅くなるけど、折れやすくなります。でも、刀は折れやすくてはいけないし、適度に堅くて良く切れなければいけない。」
「中間にしたいんだね。だから温かい水で焼き入れするんだ。」
「その通り、さすが頭が良いですね。」
ユールはにこやかに微笑み、また、厳しい顔に戻って、粘土をのせ終えた刃を熱し始めた。まずは粘土がはげないように火の上であぶり、粘土が乾くと火の中にゆっくりと入れ、ふいごを轟々と吹いた。やがて、火から刃を取り出すと、数瞬間を置き、「今」と言うと、その刃を先ほどのお湯の中に突っ込んだ。
じゅわわという音とともに強烈な湯気が上がった。
しばらくすると、刀をお湯から引き上げ、まだ黒いその刃を眺めて、机にゆっくり置くと「午前の仕事はここまでです。」と言って立ち上がった。時間は丁度お昼、昨日の朝からここまで休み無しだった。
ユール曰く「ここまでは休めないんです。一気にやるしか無いんです。」との事だった。

お昼ご飯を挟んで、午後は研ぎ出しだった。これも途中までルナと二人がかりの大仕事だったが、最後の仕上げはとても繊細な作業だった。ユールの刀が何故半分が鏡のようで半分が銀のような白なのかやっと判った。鏡の部分は軟鉄を丁寧に磨き上げた部分。半分は鋼と軟鉄が層になっている部分だったのだ。

できあがった刀には柄とさやが準備してあった。ユールは、それを仕事場の奥に飾り、健太に説明するように、
「この刀はまだ刃が付いていません。貴方が自分の腕に自信が付いたら研いで刃をつけてあげて下さい。」
と言った。健太は、黙って頷いた。

その頃、外はすっかり暗くなっていた。
ユールの仕事にはそつが無く、仕事が終わったとき、仕事場の片付けは殆ど終わっていた。
ユールとルナは、「明日お菓子を持ってきます。」と約束をして帰って行った。
俺は、見ているだけで疲労困憊して帰ったらご飯を食べたのかも覚えて無く、泥のように眠った。
翌朝、目が覚めるとお昼近かった。俺が疲れていたので、麻由美は気を利かせて寝かせてくれたらしい。
昼過ぎにユールはルナとやってきて、いつか食べた籠いっぱいの林檎の焼き菓子を持ってきた。
お袋もその焼き菓子を見て喜んだ。

そして、とうとう分かれ時がやってきた。
ユールは、
「私は、多分、もう貴方と会える時間が無いでしょう。沢山の思い出をくれた事に感謝します。」
と右手を差し出した。
「もう会えないのか?」
「私は、同じ身体をもう一人の私と分かち合っています。次入れ替わると、私が再び出てくる頃、貴方は多分お墓の中です。自分の意思では入れ替われないのですが、いつ頃入れ替わるかは何となく判るようになってきました。」
ユールは微笑みながら少し首をかしげた。
俺は、堪らなくなってユールに抱きついた。
「奥様に嫉妬されてしまいます。」
「構うもんか。」
俺は、力一杯ユールを抱きしめた。ユールも優しく俺の背中に手を回してくれた。

・・・・・

その後、ユールは本当に現れなかった。噂も聞かなかったが、王都の宿や、学校を見るたびにユールを思い出した。
時代は流れ、健太は立派な職人になり、健太の息子がユールの刀を研ぐ事になった。

人が増え、世の中は物騒な事も多くなったが、学院は未だに健在。ユールもどこかで頑張っているに違いない。

俺も、孫や曾孫に「学校で勉強出来るのはユールの御陰なんだぞ」というのが口癖になってしまった。

時代が変わり、古いものが少しずつ失われ、町には町の、日本には日本の文化が育ちつつある。あの頃ユールが夢見た世界が出来てきているんだろうか。この年になってあの時のユール気持ちが判ってきた気がした。

-おわり-
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/04/11(木) 12:35:09|
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