第八章 盗賊団と日本刀
港町は意外に近かった。まぁ、最初から短い距離だとは聞いていたが、ゆっくり移動していたのに十五時過ぎには付いてしまった。港町は、街道の三叉路にもなっている。
西の早瀬川までの街道と北の富士五湖を経由して王都の北側から東に回り込む環状街道との分かれ道なのだ。
今の日本には町らしい町は王都を除いて五つしか無い。本当は王都だけで日本国民全員が住めて事足りるくらい人口が少ないのだが、いろいろな作物を採る為に離れたところに町を作って隊商が組まれているのだ。北の寒い地域で採れるもの、高地で採れるもの。広い土地が必要な家畜。そういったいろいろな条件で町が増えていった。というのは、ユールから聞いた話だ。
港町には宿屋がいくつか有る様だった。その中でも、ユールが良く泊まるという宿に厄介になる事になった。少し小さめの宿で夫婦が営んでいて手入れの行き届いた宿だった。
晩ご飯は見た事も無い魚の煮物だった。甘辛く煮てあって見た目はかなり恐い魚だったが、非常にご飯に合った。味噌汁にも魚と海藻(わかめ)が入っていた。
夜は、一部屋に布団を三つ敷いて川の字になって寝た。何故かルナが真ん中だ。久しぶりの布団でぐっすり眠れた・・・となるはずだった。
実際には、夜中に何度か起こされる羽目にはなった。と言うのも、ルナの寝相が悪い。おなかに頭突きが入る事一回、顔面に蹴りが入る事二回。まさに、くるくる回っていたという感じだ。
ユールも何度か起こされたらしく、起こされるたびに布団をかけ直してあげていた。どうやら慣れている様だ。
朝ご飯は噂の刺身が出てきた。白身魚の生の切り身で少し甘めの醤油につけて食べた。味は淡泊で、でも歯ごたえが面白いと思った。ご飯のおかずとしては少し物足りなくて、醤油の味でご飯を食べている気になった。最初は生臭いと思っていた海の幸のお味噌汁も慣れてくると美味しかった。漬け物が良い味を出している。
宿の人の話では、刺身は今朝早く海で採れたものだそうだ。肌寒くなってきているので、早朝の海での仕事はつらそうだ。いろいろな魚の旬の時期になると王都から泊まりがけで食事だけを目的にした人も来るので宿は時期によっては大賑わいだという。今は、白子も桜エビも時期が終わって落ち着いた時期という。
「ここから王都までの間に盗賊団が出没しています。」
ユールはいつになく真剣に続けた。
「ここから王都までは馬車で丁度一日の距離です。街道が合わさって交通が多くなるこの道を選んでいるのだと思います。」
俺は、盗賊団という聞き慣れない名前について聞いてみた。
「盗賊団って、今まであんまり聞いた事無いよねぇ。」
ユールは困った顔で応えた。
「はい。今までは居ませんでした。町の中に現れる泥棒や空き巣は多少は居ましたが、小さな隊商を襲って強奪するような盗賊団が現れたのはここ三百年で初めてです。人が増えて来るとどうしてもこういう人たちは現れてしまうようですね。」
「小さな隊商って、俺たちの見た目ってまさにそれじゃ無いか。馬車に荷物を積んでいると思われたら襲われるんじゃ無いか?」
「見つかれば、襲われる可能性は非常に高いと思います。」
おいおい、あれ?でも。
「ひょっとして、最初から襲われる前提で馬車なのか?旅の最初に言ってた事って・・・」
「そうです。私達は、襲われる気満々で馬車に乗って、最低限の荷物で移動しています。最初に言ったもう一つの目的です。・・・約束・・・覚えていますか?」
「お・・・覚えてる。」
「必ず守ります。タケルは必ず守りますから、私を信じて言うとおりにして下さい。」
「・・・わ・・・わかった。」
さすがに元気がなくなった。
「ゆっくり移動するので、王都へは夜中に着く事になります。盗賊団に襲われれば明日の到着になる可能性も高いでしょう。」
よもや、自らが囮になって盗賊団をおびき出すつもりだったとは、ここでやっと最初の日にもう一つの目的と言った訳が説明されたと言う事か。
ルナは馬車を動かし初めて町から出ると、驚くようなことを切り出した。
「今朝早くに、車庫に不審な人物が来たようです。見張りのおじさんがこの馬車は王都に向かうのかと聞かれたそうです。」
少し時間をおいて、ユールが応えた。
「そうですか、斥候とみて良さそうですね。」
「はい、予定通り、空の箱を組み立てて荷物を積んでいる様に見せておきましたので、狙われる可能性は高いかと思います。」
ルナは、冷静に、そして俺に聞こえる様に返事をした。
「タケル、ローブを着ていて下さい。何があっても脱がないで下さい。出来れば、フードも外さないで下さい。」
とユールは俺にお願いしてきた。俺は、理由も聞かず従う事にした。元々、厚手の暖かいローブは、この秋の寒い時期の旅には必需品だった。脱ぐつもりは無かったが、フードも含めて念を押された。
馬車は、昨日と同じようにゆっくり走っていたが、港町の宿屋に作ってもらったお結びと漬け物の昼ご飯を食べた後はさらにゆっくり走り、ユールは何かを探している様に道を真剣に見つめていた。
お昼から二時間が過ぎようという頃、ルナが、小声で
「人の気配が近づいています。四人は居そうです。接触見込み時間まで三〇分です。」
と言った。
それとほぼ同時に、ユールが、「馬車を止めて下さい」と言って飛び降りた。飛び降りた先には、旅の音楽家が持って居る様な弦楽器が落ちていた。ユールはそれを拾い上げ、
「間違い有りません。彼のリュートです。」
と言った。リュートには血が付いていた。ユールはそれをルナに渡すと、「分析と修復を」と告げた。
ルナは、馬車の中に移動し、右側の座席代わりになっていた箱を開け、その中からいくつか道具を取り出すと、箱の上に並べ、楽器を固定して調べ始めた。
「血液は男性のものです。彼の遺伝子サンプルはありませんので誰の血液かは判りませんが・・・。彼の血族の可能性は七十八パーセントです。血液の量などから、致命傷では無かったと思われます。手当をすれば命に別状の無いレベルのけがでは無いかと・・・。修復には八時間必要です。雨にやられて相当痛んでいます。その前の痛み具合は予想するしか有りませんが、一週間から十日放置されていたと思われます。」
難しい話は分からないが、何か目的のものを見つけたらしい。状況が良い方向なのか悪い方向なのかはユールの顔色から判断するしか無い。しかし、ユールは考え込んでいる様だった。どうやら、芳しいとは言い辛い状況の様だ。悩んでいたユールの出した結論は、予想通りというか、俺の期待を裏切るものだった。
「やはり、彼らと接触してみるしかなさそうですね。」
「彼らとは、盗賊団ですね。」
ルナが確認して欲しくない事を淡々と確認した。ユールは無言で首を縦に振った。
馬車が動き始めた。ユールは飛び乗り、ルナは御者席に戻った。
「近付いてくる人は全部で五人、林の中を移動しています。盗賊団の可能性九十七パーセント。接触まで後一〇分。向こうがこちらに気付くまでの時間もほぼ同じです。車輪を変質させます。乗り心地が悪くなりますので気をつけて下さい。」
とルナが言うと、今まで静かだった馬車の車輪が、普通の馬車の様なごつごつとした木質系の音を立て始めた。さすがにこれは驚くしか無い。何が起きているんだ、一体。でも、本当の問題はそんな事では無い。これは、盗賊団に見つけてもらう為に態と大きな音を出しているのだ。俺は、いよいよ覚悟を決めて、フードを目深にかぶり、馬車の後方に移動して、腰を下ろした。
程なく、大きな声が聞こえ、馬車が急停止した。
「止まぁれぇ!!」
野太い男の声だった。
「おとなしくしろ、おとなしくしないと、馬の首を切り落とすぞぉ!!」
間違いない、盗賊団だ。
馬車の後ろから、刀の様なものを持った二人の男が馬車の中をのぞいていた。俺は、びっくりして御者席のユールに駆け寄った。
「馬車から降りろぉ!」
後ろの男が喚いた。ユールは、男達に負けないほど大きな声で
「おとなしくあなた方に従います。誰にも傷をつけないで下さい。」
と言い、御者席の下から杖を取り出すと、馬車から降りた。
ルナも同じように杖を持って、俺に、「ユールについて降りて下さい」と言い、自分も俺の後に付いて馬車から降りた。
「おい、大した荷物、積んでねぇよ。食料も殆どねぇ。大失敗だ。」
馬車の中から、甲高い男の声が聞こえてきた。
「くそ、馬車を間違えたか。」
「いや、昨日、港町にあった馬車はこの一台っきりだ。」
盗賊団の男どもは、しばらく話し合っていたが、馬を止めた大男が
「まぁいい、飯はまだ蓄えがある。それよりも、こいつら連れて行くぞ。」
と嫌らしい笑みを浮かべた。周りの奴らも嫌らしい笑いを浮かべている。そこへ、ユールが毅然と言葉を放った。
「どこへつれているのか判りませんが、この馬はルナの言う事しか聞きません。おとなしく付いて行きますから、私達に触れないで下さい。」
とフードを下ろした。
大男は、
「お前ら、自分たちの立場が判っていない様だなぁ。まぁいい、じゃぁ付いてきてもらおうか。」
と言って、ルナを御者席へ乗せ、一人の男がルナに刃物を突きつけ言う事を聞かせて、残り四人で俺とユールを囲んで歩き出した。
一五分ほど歩いたところに、馬車を隠せる獣道があり、そこに馬車を隠すと、馬を外し、少し離れた木に括り付けた。
さらに、山道を三〇分ほど歩いていい加減休みたいと思い始めたとき、突然、開けた岩場に出た。岩場の奥には、洞窟の入り口の様な岩の裂け目があり、その前に、先ほどから居た大男より一回り大きい大男が座っていた。その傍らには、巨大な刀が立てかけて有り、異様な雰囲気を醸し出していた。
「早かったっじゃねぇか。しかもお客さんも一緒かよ。」
座っていた大男が酒でも飲んでいるのか、何かを呷りながら立ち上がり、巨大な刀を手に取った。
「へい、頭。でも、めぼしい収穫はこの女くらいですよ。」
と声の甲高い男がユールの腕を掴もうとした。その途端、
「触るな!」
とユールが声を発し、腕を掴もうとした男が地面に転がった。ユールは、無表情にお頭と言われた男に話し出した。
「アナタに聞きたい事があります。お頭さん?」
「何だ。」
お頭は怒っている様だ。
「十日ほど前に旅の楽師と二人の踊り手がこの辺りに通りかかりませんでしたか?」
そんな事をしていると、岩の裂け目から、さらに多くの盗賊達が現れた。盗賊は五十人を超えた。お頭は悠然と
「ん~~?いたかなぁ?どうだ、お前ら、覚えてるかぁ?」
と不敵に笑いながら周りの盗賊に聞いた。すると、いやらしい顔をした一人の盗賊が
「あの、おいしく頂いちゃったおねーちゃん達でしょ。今は奥で伸びてますよ。なんせ、この一週間、俺たち全員の相手をしてるんだからなぁ。ケッケッ」
と笑った。お頭は、
「あぁー、あのかわいい声したねーちゃんたちかぁ。そうかそうか。ところで、楽師なんかいたかぁ?」
ととぼけた声で質問した。すると別の盗賊が、
「お頭が真っ二つにしちゃったあの男のことじゃないですかぁ?」
と答えた。
「あーーっ!いたなぁ。こいつで真っ二つにした野郎が一人なぁ。」
とぎらぎら光る巨大な刀を右手で持ち上げ、左手でぺちぺちと弄ぶと、それが合図であったように盗賊たちが一斉に笑い出した。
ユールは、しばらく我慢していましたというように間を置いた後、杖を軽く持ち上げ、「ドォーン」というすさまじい轟音とともに足元の岩盤に突き立てた。
突然のことに静まり返ったところにユールの美しいが怒気を孕んだ声が響いた。
「そんな『なまくら』では、人どころか鶏も真っ二つにはなりませんよ。」
その声に反応したのは盗賊団のお頭だった。
「なんだとぉ。」
「それに!」と、まだほかの人の発言を許して無いと云わんばかりの調子でユールが続けた。
「あなた方は、私が人間の所業の中で最も嫌悪している行為に手を染めてしまったようです。あなた方は、自分たちの行為の報いとして死よりも苦しいことがあることを知るでしょう。」
言い終わると同時にユールはもう一度杖を持ち上げ、岩盤に突き立てた。すると、杖の上半分が二つに割れ、中から束が飛び出してきて、杖の先端でくるりと回ると、心が澄み渡るような美しい長刀が姿を現した。
長刀は根元から先端に向けてわずかに弧を描いており、弧に沿って半分は鏡のように輝き、半分は銀白色に光っていた。
割れていた杖は刀を挟むように合わさると、刀を先端に付けた槍のようになった。いや、大きな薙刀といったほうが正しいかもしれない。しかし、杖だけで二メートルあり、さらに一メートル以上はあろうかという長刀が先端についているのだ、扱うには相当の膂力が必要になるだろうことは素人の俺にもわかった。
盗賊団のお頭は、相当頭にきているようで武器を構え、
「面白れぇじゃねえか。相手してやるよ。叩き切ってやるよ。」
と大上段からユールに切りかかった。
ユールの動きは、ゆっくり動いているのかと思うほど滑らかだった。薙刀をお頭の持つ大刀の根元に合わせ相手の動きを止めると、次の瞬間には薙刀を振りぬいていた。
ユールは鉄の刀を折ったのだ。いや、切ったのだ。
皆が、何が起きたのかかたずをのんで見守る中、お頭の大刀の刃が『ゴワン、ゴワワン』という音とともに地面に落ちた。音を聞いた俺は、「焼き入れもしてないのかよ。なまくら以前だな。」と呟いていた。
「こんな『なまくら』が何十本集まっても私たちには通用しませんよ。」
ユールは、明らかに挑発しながら、杖の先についていた長刀を取り外し杖を地面に突き刺し、長刀を左手に持った。
「おっ、俺たちの武器造りの努力を馬鹿にすんなぁ。」
盗賊団のお頭の喚き声に合わせて、盗賊団は一斉に俺たちに襲い掛かってきた。
俺は、怖くなってローブをしっかり被ってしゃがみこんだ。すると、隣のルナが、
「よい判断です。動かないでください。」
といった。途端、ローブの端が地面に突き刺さり、ローブが鎧のように固くなった。もう俺は、見ていることしかできなくなった。
ユールとルナの強さは圧倒的だった。数では圧倒している盗賊団だが、対峙して武器を振らせてもらえる者すらいない。盗賊団は一方的に切り伏せられていった。
盗賊団の半数が地面に転がった頃、洞窟の奥から二人の少女が引っ張り出されてきた。服はぼろぼろに破れ裸同然だった。体は汚れ、顔はひどく殴られたのか腫れ上がっていた。痛々しくて見ていられない。盗賊団のお頭が小刀を少女たちに突き付け、「動くな」というのが早いか、ユールは身に着けていたローブを少女めがけて投げた。投げられたローブは手裏剣の様にゆっくりくるくる回転しながら少女たちに向かって飛んでいったが、ユールはローブより早くお頭を捉え、切り倒し、離れた場所で次の盗賊を切り倒している頃、ローブは座り込んでいた少女たちに優しく覆いかぶさった。
ユールはゆうに十メートルはある間合いを一瞬で詰めてしまう。動きが滑らかで優雅で速さを感じさせないので、近づいてきたと思った時にはすべてが終わっているのだ。
盗賊団は、為す術も無く全員地面に転がることとなった。五~六十人はいた盗賊団の退治は三分とかからなかった。
最後の一人が地面に突っ伏す前に俺の着ていたローブは普通のローブに戻っていた。約束通り、俺は怪我ひとつしていなかった。というか、怪我すらさせてもらえなかった。俺とユールとルナは少女たちに駆け寄った。少女たちは気を失っているようだった。
「ルナ、ユニコーンの角を四本。」
「すでに用意できています。」
ルナの声に合わせて、地面からユールやルナが普段持っている杖と同じものが四本生えてきた。
先文明の技術なのか今日はぎょっとすることが起きすぎてもうどうでも良くなってきて、俺はそのまま見守ることにした。
ルナが杖を一本取ってユールに渡すと、ユールは少女の一人を寝かせて杖を少女の体に突き立てた。すると、杖がゆっくりと少女の体の中に溶けていく。
「なっ」
さすがに声を出した俺に、ユールは説明するように話し始めた。
「これは、私が自分の意志で使うことのできる唯一の奇跡なのです。この少女たちが経験してしまった悲劇を自然の記憶を使って無かったことにします。つまり、経験する前に戻します。」
「えっ。どうやって?」
「方法は説明できません。しかし、結果は説明できます。私とルナ以外のすべての物の記憶からこの子たちの経験した悲劇の記憶が消されます。そして、それによって生じる世界のゆがみはこの子たちに苦痛を与えた盗賊たちがすべて引き受けることになります。盗賊たちは死ぬまで覚えていない罪の贖罪のために消えることのない苦しみを味わうことになります。」
説明が終わるころ、一人目の少女に二本目の杖が溶けきった。ユールはすぐに二人目の少女も同じように横たえ、杖を溶かしていった。
やがて、二人の少女から虫の様な何かが湧き出し盗賊達に向かって行っては溶け込んでいくという奇妙な光景が繰り広げられ、それと同時に少女の顔の腫れがひいたり、破れた服が元に戻り始めたり、まるで怪奇現象のようなことが起こった。しばらくすると、二人の少女の胸から一匹ずつの蝶が飛び立ち、俺のおでこにとまった。その瞬間、俺は意識を失った。
「タケル、起きてタケル。」
ユールの声で俺は目覚めた。
「あれ?」
周りを見回して状況を確認し始めた。盗賊たちが転がっている。俺は・・・気を失っていたのか?
「気を失ったようですね。ここはまだ危険なので早くこの娘達を連れてここから離れたいのですが、手伝ってもらえますか。」
ルナの感情のない声が俺を急速に現実に引き戻した。
「そうだ、この娘たち大丈夫だったのか?ひどいことされたんじゃ。」
と言いかけると、ユールは一瞬つらそうな顔を見せたものの、
「この娘達は大丈夫です。」
といって二人の少女の髪を撫でていた。
確かに、服に乱れはないし、気を失っているようだけど顔色もいい。大丈夫そうだ。
俺とユールは少女を一人ずつ抱きかかえて馬車まで急いだ。
盗賊たちは死屍累々といった感じで転がっていたが、ユールは「死んではいません。皆、峰打ちにしています。」といっていた。確かに誰も血を流していなかった。
馬車もカストゥルとポルックスも無事だった。
急いで少女たちを馬車の中に寝かせ、馬車を王都に向けて走らせた。
後から聞いたのだが、俺が気を失っていたのは三分ほどだったらしい。
気が付いた盗賊が報復にやってくるのではないかと心配した俺に、ユールは理由は教えてくれなかったが、「その心配はない」とだけ言った。ルナは私をなだめるように
「彼らは、今、それどころではない大変な状況になっているはずです。」
と、納得できるような納得できないような説明をした。
少女達が寝ているので、馬車をあまり急がせることはできなかった。その為、王都に着いたのは夜中だった。
王都は何万人もの人が生活していて、とにかく広い。大きな橋を渡り、最初の家が見えて「王都に入りました。」と言われてから宿屋につくまで二時間はかかったのではないだろうか。兎に角、ここまでくればもう安全だろう。
宿屋では、主人が待ち構えていて、少女たちを抱きかかえた俺たちをすぐに部屋に案内してくれた。部屋は、確かに広かった。最初の部屋は大きなベッドが二つある十五坪ほどの部屋で、左右にベッドが二つある十坪ほどの部屋と大きなベッドが一つある八坪ほどの部屋が付いていた。
俺たちは十五坪の部屋に二人の少女を寝かせた。そして、馬車とカストゥルとポルックスの世話をして戻ってきたルナに少女達の世話を任せて、翌日に備えて休むことになった。
ユールは大きなベッドで一緒に眠りたいと主張したが、疲れていることを理由に何とか納得してもらった。それでも同じ部屋で寝ることには妥協した。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2013/03/20(水) 18:22:19|
- 再生した地球にて
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