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くわぽんのつれづれ日記

思うが侭、つれづれに書いています。ほぼ、毎日更新中!!

第四章 旅立ちに向けて Part.2/3

静寂を破ったのはお袋だった。
「まって!!待ってください。」
親父も俺もびっくりしてお袋を見た。ユールは振り向かずに立ち止まった。
「あなた、本物のユールさんね?私、子供の頃読んだんです、『二輪の花の記憶』。その中に貴女のことが何度か出て来るわ。痛みのない腰まで有る長い黒髪、一枚の布を身体に巻き付けたドレス。ドレスの表現が全然想像できなかったけど、貴女の格好は、間違いなく、あの本に出てくるユールだわ。息子と友達になってくれたの?ありがとう。ごちそうを用意したのよ、食べていって、無駄にしたくないわ。」
お袋のまくし立てるような言葉に呆然としていたら、ユールはゆっくりと振り向いて言った
「でも・・・」
「うちの人も驚いただけよ。悪い人じゃないって直ぐに判るわ。」
ユールは泣いていた。お袋は、ゆっくり歩いて行ってユールの頭を抱きしめた。何かをささやいているようだった。ユールは首を縦に振ると、二人はこちらに歩き始めた。
「まぁ、おまえが連れてくる奴に悪い奴はいないさ。おまえは人を見る目だけはあるからな。」
親父は今更な発言をしながら、しかし、俺たちを安心させようと精一杯の台詞を吐いてくれたんだと思った。そして、ルナの言った言葉の重さを今更実感してしまった。ルナの忠告は的確だったんだ。
食事中もお袋は饒舌だった。『二輪の花の記憶』はお袋にとってかなり思い入れのある本だったらしい。
「この服は一枚布だって書いてあったけど、本当に一枚布なの?」
「はい、一枚の布であるだけでなく、一本の絹糸でできています。自然には絶対できない布なんです。」
「一匹の蚕がはいた糸ってこと?」
「そういうことになりますが、自然にできた物では無くて、先文明の技術で無理矢理作ったんです。一本の糸で布を作って糸の始まりと終わりを繋いであります。始まりも終わりも無い縫い目も裁ち目も無い服です。でも、気に入っているんです。さわり心地も良いでしょう?肌の上に直接着ているんですよ。」
最初はふんふんと聞いていたが、だんだん難しい話になって、最後の一言で想像した俺は鼻血を出してしまった。
「ふっ、服になりたい。」
「おまえは何を言っているんだ、あ~ぁ鼻血まで出して、何やってるんだ。」
親父が俺の世話を焼く羽目になってしまい、女性陣は声を出して笑っていた。

しばらくして、お袋が言い出した。
「これからのご予定は?」
「特には決めていないのですが、何も無ければこの国の王様に会いに行こうと思っています。最近、会っていないので・・・」
ユールは意味ありげにこちらを見ていた。言いたいことは判っていた。えーい、もう一度言ってやる。
「結婚してください。」
「・・・結婚は無理です。でも、愛人で良ければなりましょうか?」
「それは・・・色々不味いでしょ・・・何というか・・・無理・・・」
終わった。
「どうして無理なんだ?」
親父が質問してきた。ユールが質問で返した。
「結婚の件ですか?愛人の件ですか?」
「結婚の件だ。息子が気に入らんのか?なら、愛人も無いだろう?愛人はよくて結婚がだめの意味がわからん。」
親父の意見は正論だった。だが、それに答えたのは意外にもお袋だった。
「息子のことを好きになってくれたのよね。でも・・・好きだから息子とは結婚できない。息子には夢があるから・・・」
「はい、ごめんなさい。」
どういう事だ?と疑問に思っている俺と親父に、ユールもお袋も正解を教えてはくれなかった。でも、お袋がたぶんユールの気持ちに一番近づけたことは間違いなさそうだった。そう思ったのは、お袋が『二輪の花の記憶』の登場人物には触れず、城や服や当たり障りのなさそうな物の話しか出さなかったので何となく判ってしまったのだ。ユールは昔の『人』の話はしてほしくなかったのだろう。お袋は最初から判っていたのだ。そうか、教授が脅しに使えたのはそういうことか。
食事が終わった後、ユールの作ったお菓子が出てきた。お袋が「お手持ちですが。」と持ってきたのは見たことの無いお菓子だった。ユールは林檎のパイだと教えてくれた。
赤くて酸っぱい林檎を砂糖と一緒に焼いて甘くする。それを、小麦粉と牛乳の脂肪で作った生地に包んで焼いた物だ。桂皮という香辛料が不思議な香りで食欲をかき立ててくれた。おかげでおなかがいっぱいでも食べられた。桂皮は胃薬にもなるらしい。
「俺、来週王都にいくんだ。融資を頼みに。」
「融資?・・・あぁ、水車を作るんですね。あー、楽しみですねぇ。粉を挽いたり水田に水を引いたり、いろいろ応用が利きますからねぇ。ここまで来るのに三百年もかかってしまったんですねぇ。」
ユールは夢を見るように手を胸の前で合わせた。
「融資、受けられるかなぁ。」
心細くなってつぶやいていたら、ユールの優しい声が聞こえてきた。
「でも、行って試るって決めたんですよね。であれば、自分の思いの丈をぶつけて来るべきです。結果は時の運もありますが、ほとんどの場合、自分の思いに結果は付いて来てくれる物です。・・・もしだめだったら・・・そのときは・・・いっ、いえ、何でもありません。来週でよければ、私の馬車で城に向かいますか?歩くよりは速いですよ。」
「いいじゃない。そうしなさいよ。私も安心できるし・・・。」
とお袋が言ってきた。
「安心って・・・」
と、親父と俺が苦笑いしていると、お袋はたたみかけてきた。
「知らないの?ユールさんは剣と槍の達人なのよ!!」
「え~~っ!!」
またもや親父と重なった。
「まぁ、たしなみ程度には・・・剣では無くて刀ですが・・・」
「以外だ。外見に似合わない。」
俺の言葉に恥ずかしそうに言い訳を重ねてきた。
「ルナにたたき込まれました。私には要らない技術なのでですが、守りたい人が現れたときに守れるようにって・・・。」
「まぁ、お城でも貴女と居た人よねぇ。」
「はい、今度の旅も一緒です。」
「まだ生きてらっしゃるの。会いたいわ。是非!!」
何でお袋の方がうれしそうなんだ?
「呼びましょうか?多分その辺で見張っていると思います。見かけは・・・だいぶ幼くなっていますが・・・」
「まぁっ、お城にいらっしたときは普通の女性のような表現でしたのに・・・」
「はい、あの頃は、どちらかというと年配の女性でした。ルナは身体が年をとると身体を取り替えるので若返るんです。」
「そうなのぉ、んー。ピンとこないわ。」
「ルナ、居るんでしょ、出てきて一緒にパイをいただきましょう。」
少し大きな声でユールが言うと、玄関が「コンコン」と叩かれた。俺が出て行くと、そこにはローブと杖を身につけたルナが立っていた。
「お邪魔します。呼ばれましたので・・・パイは結構です。食事は済ませていますので。」
「まぁ、本当に無愛想。」
お袋が感心していた。
「あの本にはそんな事とまで書いてあるのですか・・・」
ユールは驚いて聞いた。
「あつ、ええ、書いてあったわ。ごめんなさい、あの本の話はあまりしない方が良いのよね。」
「いいえ、かまいません。もう一人の私なら耳をふさいで部屋の隅にうずくまっているかもしれませんが。」
といって女性陣は男性陣にわからない話で盛り上がった。さり気なくルナもその輪に入っていた。
親父は俺をちらちら見ながら
「まぁ、なんだ、気の知れた仲間なら初めての旅について行ってもらった方が良いだろう。街道も最近では盗賊が出るからな。二人だけなら反対しようと思ったが、あんな小さい娘の前じゃおまえも変な気は勃さんだろう。」
と言った。俺も、女性陣を眺めながら「ああ」と返事をしていた。
夜も更けて、ユールは「そろそろお暇します。」と言った。お袋は大変残念がったが、親父が「明日も仕事がある」というと、渋々納得した。俺はユールを送ると言ったが、ルナが不要と突っぱねたので玄関で見送ることになった。
別れ際、ユールは学院の宿舎にいるから用事があればいつでも来てほしいと言ってくれた。来週の準備もあるので、必ず行くと約束をしてその夜は分かれた。
ユールが帰った後も、お袋は興奮しているようだった。少女の頃にあこがれた相手が目の前に現れたのだから当たり前なのかも知れないが、なんか、凄く感謝された。

翌日から親父にしごかれた。学院では様々な勉強の合間に鍛冶の腕を磨いていた。教授も鍛冶職人だったのでいろいろ教えてくれた。また、時々、金属の教授もやってきてできた作品の出来映えを目に見える形で示して何が悪いのか、どうしたら良くなるのか一緒に考えてくれた。おかげで、ただ叩くだけでは無い鍛冶という職人技を科学という真理を探究する手法で確認しながら身につける事ができた。
少なからず腕を上げていた俺に親父は満足そうだった。もうすぐ、鍛造の鍋も任せてもらえるかもしれない。
俺は、仕事場を借りて水車を作るときに必要になる道具を作り始めた。道具の作り方は教授に何度もたたき込まれた。道具を作るために道具が必要になる。万能な道具は存在しない。様々な道具を作る必要がある。
道具作りはユールも手伝ってくれた。刀鍛冶だと言うだけあって、鑿の品質は驚くほど高かった。得意なのは剃刀や鉋だと教えてくれた。鑿などの刃の厚いものは得意では無いらしい。実際、槍鉋や身を守る短刀なども作ってくれた。また、意外にも両挽き鋸という特殊なのこぎりも作って見せてくれた。これは、太い木を切り倒すときに役に立つもので、二人で力を合わせて使うものだという。この地方では木を切り倒すときは太くても細くても斧を使うのが普通だったので一寸新鮮だった。鋸の作り方も面白い。まず、鑢と鏨を作り、手間をかけて作っていく様子は面白い興味深いとしか言いようが無かった。
木は切り倒してから数年干してから使う必要がある。そのため、最初の水車は乾いた木をどこからか仕入れる必要がある。でも、将来的には近くから手に入れられる事が望ましい。この町の北の山間にある小さな湖の畔には木こりの村があるらしいが、必要なとき以外は町に住んでいると聞いている。誰に聴けば連絡が付くんだろう。そんな事を考えながら、一週間がたとうとしていた。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/01/10(木) 12:37:47|
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