第二章 再会
・・・・・
あれから二日、彼女のことが頭から離れなかった。いろいろ考えたし、昨日も歴史学の教授に相談に乗ってもらった。
「彼女は結婚できないんですか?」
と。
すると教授は
「彼女のことは判らないが、長い歴史の中で『ユール』は何度となく結婚している。子孫も沢山いると言われている。だから、違う理由なんだろうなぁ。あー、あと、ユールが自分から身分を明かすのは結構珍しいんだ。今回は私が昔の話を頼んだからだと思うが、そうすると自分が『ユール』だと明かさないとうまく伝わらないことも多いだろうからな。」
といった。俺は新しい疑問を口に出していた。
「『ユール』は一人じゃないのか・・・」
教授は大笑いしながら答えとも付かない答えを教えてくれた。
「彼らが自分たちをどう認識していて何人と表現するかには非常に興味があるが、歴史的事実として『ユール』は常に一人だよ。『男のユール』も、『女のユール』もそれらをひっくるめて歴史的事実としては常に一人なんだ。」
「・・・訳がわかりません。」
「そうだな、詳しいことを他人に伝えることは禁止されているんだ。でも、その手がかりは世の中にいくつもある。初代日本国王の国王としては最後の后である彩花様とその娘王女であり後に野に下った悠花様の日記だ。悠花様が編纂されて『二輪の花の記憶』として出版されているあの中に多くの示唆的な内容がある。『ユール』は特別に私に真実を教えてくれた。といっても、実際には脅して聞き出したんだがね。」
「どうやって脅したんですか?」
「私が聞き出したのは国王であった男のユールからだ。『二輪の花の記憶』の后彩花様との別れの場面からいろいろ想像して、『本の内容を要約して論文として発表会の席で無理矢理聞かせるぞ!!』と脅してみたのだ。くっくっくっ、あの時のユールの苦虫を噛み潰したような顔は今でも忘れられん。男のユールは彼女と違って諸々のことを達観しておってな、まともな交渉は成立しないことが多いんだ。」
「それが脅しになるんですか」
「内緒だぞ、ワシもさすがにユールと喧嘩はしたくない。」
眠れない夜を過ごしながら、また彼女のことを考えた。
「教授はいろいろな手がかりをくれたんだろうなぁ。理解しきれない自分が恨めしい。」
あんなことが目の前で起きたので、教授は親身になって相談に乗ってくれた。でも、いろいろと釈然としない。
「彼女は『考えさせてくれ』と言っていたけど、返事はくれるのかなぁ。でも、明日には帰っちゃうしなぁ。」
独りごちしながら天井を見上げていた。気がついたら寝ていたようだ。
「起きて・・・アナタ起きて、遅刻しちゃうよ。」
という優しく歌うようなユールの声に起こされた。
「はっ」
と目を開けると、夢だった。揺らされたような感覚もあったのに、まだ寝ていたかったのに・・・と考えていてもう一度「はっ」とした。
「今何時だ?」
十時、今からだと、朝の水浴びをして着替えて・・・飛行機に乗る時間にぎりぎりじゃないか。
「やばい!!」
飛び起きて急いで準備した。長旅になるので朝の水浴びはしておいた方がいいと忠告されていたのだ。
走って汗をかいては、朝の水浴びの意味が無くなってしまう。
汗をかかないぎりぎりで急いでこのあたりで最大の運動場に向かった。通路の途中には噴水広場があり、水飲み場やトイレ、更衣室などが並んでいる。その先が運動場、
「どうにか間に合ったかな。遅れると怒られるからなぁ。」
担当教員はうるさい人なのだ。その人は運動場の入り口に立っており、俺を見ると、
「時間ぴったりですね。珍しい。急がなくていいですよ、飛行機の準備と、他の乗客が来ていないようです。」
と言った。
運動場には大きな長細い機体に原動機の付いた動く羽を持つ大きな飛行機が止まっていた。
三年間面倒を見てくれた担当教員が俺の荷物を受け取ると係員に渡した。俺の荷物は一足早く積み込まれていった。
担当教員は次の用事があるので戻らなければいけないと申し訳なさそうに肩を窄めていた。しかし、俺はできる限りの笑顔で
「ありがとうございました。三年間お世話になりました。」
と元気よく言い、その後も、思い出を一生懸命つなげようとしたが、担当教員は
「あなたはかつて私が担当した中で最も優秀な学生でした。また何か学びたいことができたらいつでもまた来てください。そのときも私があなたの担当教員ですから安心してくださいね。」
と、涙で潤んだ瞳でこちらを見つめながら握手を求めてきたので、俺は黙ってしっかりと握手に応じた。二人とも、両手でしっかりと握手した。
やがて、担当教員は名残惜しそうにその場を後にした。
スポンサーサイト
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2012/12/04(火) 20:54:28|
- 再生した地球にて
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0