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くわぽんのつれづれ日記

思うが侭、つれづれに書いています。ほぼ、毎日更新中!!

再生した地球にて 第一章 一目惚れ

再生した地球にて

第一章 一目惚れ

俺は今日、学院を卒業して家に戻る途中だ。
学院で十六歳から三年ちょっと勉強して、仕事に使うための水車の設計図を持って帰れる。
学院というのは、地球上の最高学府である・・・・といっても読み書きそろばんを教える以外の教育を受けられる場所は学院しかない。
学院で学んだ事の中に地球の歴史があった。教授の説明を掻い摘まむと、

『かつて、非常に進んだ文明があった。今は先文明といわれるその時代、馬車よりも速い乗り物、空を飛ぶ乗り物が頻繁に飛び交っていた。月や火星まで人を運ぶこともできた。
しかし、世界的な戦争が勃発した。小規模の経済戦争を引き金にしたこの戦争は大方の予想に反して大規模な武力衝突に発展した。
開戦当初、核兵器などの大量殺戮兵器によって人類が滅亡する危機を恐れて人類は、この戦争で核兵器を使用しないことをいち早く申し合わせた。原子力発電所に対する攻撃もしないこととなった。
ところが、人類を滅ぼしたのは武器の矢玉として使用されていた重金属と火災により舞い上がった粉塵だった。太陽活動の不活発化と合わせ、寒冷化した地球は世界的な飢饉に突入。戦争は自然収束した。
森林の60%都市の70%を焼き、残った人類の10%以上に重金属汚染による奇形や精神障害が発生するに至って人類は取り返しのつかない状況になっていることに気がついた。
当時、学院の前身は存在しており、十基以上の宇宙植民地惑星(といっても一基十万人程度しか住めない)と百隻近い恒星間移民船を提供し、人類とその他の生き物たちの存続を図った。』

その後、各国の地下シェルターに避難していた人々や学院が保護していた動植物、宇宙植民地惑星の住人の一部が再生した地球に戻り、今に至っている。現在の地球は先文明の暦でいうところの西暦零年から西暦一千二百年の状態らしい。幅が広いのは、学院のせいだ。学院には先文明最盛期のすべての技術を教育できる設備がある。そのため時代を歪めてしまっているそうだ。
とはいえ、一千年以上の人類の進歩がすっかり失われてしまったことは間違いない。

技術を教育する機関があるのになぜ技術が後退してしまったかというと、簡単に言うと、工場や工作機器が無い、電気もわずかにしか無い。よって文明を維持できなかったそうだ。文明の退化を嫌う人々は宇宙植民地惑星に残っているらしいが、学院は維持費のかかる宇宙植民地惑星をいつか解体するのでは無いかと戦々恐々としているという話だ。まぁ、単純に考えて、千年以上も宇宙に漂っていたのだから痛みも激しいらしい。
閑話休題

俺は、学院に冶金を学ぶために行った。俺の家は代々鍛冶屋を営んでいる。しかし、親父の代では鍋や釜の修繕、農機具のたたき直しを主な収入源としていて、貧しかった。学院は学ぶだけなら無償だし、食事や宿泊施設も提供してくれる。何せ僻地にあるので、どの町からも十分に遠いという特徴が有り、俺の町からも歩けば一年はかかるかもしれないという噂だ。
学院は送り迎えもしてくれる。ある程度大きな町には必ず学院の出先機関が有り、鉄やコークスなどの鉱物と医薬品を販売している。この時代、鉱山は存在しない。学院から買えるからだ。
学院が鉱物を販売している理由は、減ってしまった人類に危険な仕事をさせたくなかったことと、環境破壊を避けたかったからだそうだ。
しかし、学院は工業製品の完成品は提供してくれない。材料だけだ。学院が完成品を販売すれば文明を維持できたのでは無いかと何度も思ったが、当の学院は文明を衰退するに任せた。

そうそう、学院には、先文明のいかなる物品のも生産できる機材がそろっているそうだ。
ならば、先文明後期の優秀な工業製品を作成できそうだが、残念ながら、機材は研究目的で提供しているため、学院は作るべきものの設計図を提供してくれない。設計図を描こうと思っても基礎や蓄積が無いので、そのための研究だけで一生が終わってしまうだろう。

学院はけちなのだ。

いや、無償で勉強させてくれるし、持ち帰らないことを条件に研究のための素材を無制限に提供してくれるのだからけちとはいえないのかもしれないが・・・

学院の言い分は、『文明の方向性を学園が決めるわけにはいかない』というものだ。実際、戦争があろうが、天変地異があろうが、学院は一切口出しも手出しもしなかった。件の大量殺戮兵器があったらどうかわからないが・・・。学院の行う介入は『学生の受け入れ』と『鉱物や医薬品の価格の変動』のみだ。とはいえ、学生の受け入れは事実上の食糧支援と居住施設の提供であり有り難いことに変わりは無い。

久しぶりの帰郷の足は、学院が用意してくれた飛行機だ。3年前、学園に行くときも乗ったのだが、さすがに度肝を抜かれた。地球上では学院だけが所有する先文明の遺物だ。
空に飛び上がるときの浮遊感はなかなかなれないものがある。

俺にはうれしいことがあった。
学院で出会った一目惚れの相手が同じ飛行機に乗っているのだ。
彼女は学院で出会った教員以外では唯一の人間だ。

学院は恐ろしく広く、学生も少ない。学院の敷地は直径約百キロ。年間の学生受け入れ人数は二百人に満たないそうだ。これは、学院が制限しているのでは無く、学ぼうとするものが少ないのだ。
学院の入学条件は、
1.読み書きができること(何語でもよい)
2.2年以上勉学に励めること
3.教員が卒業を認めるまで帰宅しないこと(帰宅しないですむ家庭環境であること)
4.卒業に相当する勉学の目標があること
俺にとっては、実は4番目が一番きつかった。
教員の面接で明確に目標を伝え、「卒業相当である」と認められなければいけない。
何度でも挑戦できるが、一切の忠告や手助けは与えてくれない。
さすがに、被災地では条件を緩和するらしいが、二度とあの面接は受けたくない。

あー話が飛んでしまった、彼女のことだ。
それは、卒業が決まり、歴史学の教授と話していたときのことだった。そもそも、俺の学びたい内容に歴史学は関係なかった。しかし、学院のあり方に疑問を持った俺に冶金の教授が歴史学を学ぶことを勧めてくれたのだ。多少余裕があった俺は二つ返事で歴史学を学ぶことにしたので、歴史学の教授は出張して俺に教えに来てくれているのだ。

「文化や文明の発展が様々な歴史的経緯によって決定されるということは十分に理解できました。しかし、学院が文明の発展への寄与に消極的な理由が今ひとつ理解できません。」
俺は最後になるかもしれない講義で自分が悩んできた内容を直接ぶつけてみたのだ。
教授は、しばらく考えた後、
「私の知識と経験で話してもおそらく理解は難しいだろう。この件の適任者が、今学院に来ているということなので連絡を取ってみよう。君と同じ日本人なので文化的にも理解しやすいだろう。」
といって、ついてこいというと一つの教室に向かった。
俺は百人は入れる教室の入り口近くの前から二番目の席に座った。

教授は特に連絡を取った様子もなかったのだが、しばらくすると彼女と彼女の連れが教室に入ってきた。
彼女は殊更美しいということも無く、かといって殊更かわいいということも無いのだが、全体として均整がとれており、やせてもおらず、かといって太ってもいない。
何というか・・・普通を極めた結果の美という感じだった。
ぬばたまの黒髪を腰まで伸ばし、肌も日本人にしては白い。白い厚手の布で作ったロングドレスを全身にまとった彼女の物腰に心臓を打ち抜かれてしまった。

こちらをちらりと見て、にこやかに軽く会釈をすると教壇に立っていた教授に向かっていった。
彼女は教授と小声で会話を始めた。

彼女の連れは、十歳かそこらの少女の様に見えた、かわいい顔つきにも関わらず、年齢に似合わない無表情で姿勢も良く、黙って俺の前の席に俺に背を向けて座った。
俺はその子に後ろから話しかけた。
「お名前は?」
しばらく黙ったまま前を向いていたが、くるりと身体を横に向け、顔だけを俺に向けた。
「・・・私はアナタよりかなり年上です。子供に話しかけるように話す必要はありません。」
しっかりした受け答えにびっくりしてしまった。しかも、どう見ても年上には見えない。ただ、不自然なほど感情を読み取れない。
「私はルナ、学院を管理するコンピュータと同等のコンピュータです。・・・コンピュータという概念を学んはでいませんか?」
驚いてすぐには返事できなかった。コンピュータについては歴史学で学んだし、実際にパーソナルコンピュータを使って水車の設計とシミュレーションをしたのである程度は理解していたつもりだったが、目の前の少女は全く人間にしか見えない。
「コ・コンピュータは使ったことあるけど・・・」
「私の本体は月にあります。その一部の機能は地球上にありますが、私は地上にある機能の端末、有機体アンドロイドです。・・・ガイノイドでもいいですが・・・」
「アンドロイド?ロボットみたいなもの?工作機械では見たことあるけど、コンピュータからの指令で動く機械のことだよね?」
「私は子供ではありません。このからだの年齢は四十歳を超えていますし、私の知能の年齢は八百歳を超えています。この肉体は長く活動するため、成長と老化を極端に遅らせているのです。」
だっだめだ、理解の範囲を超えている。これが先文明の遺産というものか・・・
絶句していると、助け船が来た。しかも、有機体アンドロイドと自称した本人からだ。
「私に聞きたいことがあったのではないですか?彼女のことですよね。」
と教壇で教授と話している女性をあごで示した。
「そっそう、彼女のこと、名前はなんていうの?どこの出身?何している人?」
「・・・本人に聞くべき内容ですね。でも、許可は得られましたのでお答えします。」
??だれがいつ許可したのだ?
「彼女は・・・アナタが最も理解しやすい名前では『ユール』と名乗っています。出身地はあまり正しくはありませんが『トウキョウ』です。放浪している人です。」
『ユール』と言う名前には聞き覚えがあった。というか、日本人で知らない人はいない。
「初代の再生日本の国王?男の名前じゃないのか?」
そう、『ユール』という名前は再生した地球にできた日本人の国を最初に統治し導いた初代国王の名前で百年以上統治した。その後、世界中で農業の指導に当たり、全世界的にこの名前を名乗ることはタブーとされるようになった。功績が大きすぎるため、偽名として名乗る人間が多く、大問題になり、やがて、皆が『ユール』という名前を避けるようになるに至って偽名として名乗る者もその名前を子供につける者もいなくなっていった。法で禁止している国すらもある。
つまり、今の世では『ユール』の名前を名乗る者は本人しかいないのだ。
「本人?まだ生きているの?三百年以上も前の人だよ?」
回答は感情もなく淡々としたものだった。
「理由は申し上げられませんが、彼女は不死です。男の姿でも女の姿でも『ユール』は『ユール』です。そして彼女は私より長寿です。」
正直、この子が言っていることが本当なのか全く判らなかった。

その時、教授と話していた女性はこちらに振り返って言った。
「自己紹介は不要ですね?あなたの知りたいことをあなたの言葉で聞かせてください。」
「学院の持っている技術を広く活用すれば文明はこんなに後退しなかったんじゃないかと思うんです。歴史的に見ても、この三百年は文明が停滞しているといっていい期間だと思います。私は、ここにきて初めてかつての人たちが鍛冶の手助けに水車を使っていたことを知りました。そんなことすら学院は人々に伝えていません。もっと、こう、なんていうか・・・」
「あなたの言いたいことはなんとなくわかります。私も、昔はあなたと同じように考えていました。」
「え?」
一瞬、彼女が何を言い出したのかわからなかった。まるで音楽を聴いているような気分になってしまった。なんとなく嬉しかった。

「できるだけ、ゆっくり話をしましょう。まず、学院のものの教え方をわかってほしいのですが、学院の教授に『人手を使わずに水をくみ上げる方法はないか?』と聞いても回答は得られません。しかし、『自分の住む地方にいつも吹いている風の力を利用して人手を使わずに水をくみ上げる方法はないか?』と聞けば、かつて風車で水をくみ上げていたことを教えてくれるでしょう。」
これには覚えがあった。俺は、家の裏に流れている川を利用できないか聞いたところ、水車の存在を教えてもらい、ふいごや鎚を水車で動かせないか聞いて力学や設計方法の基礎を教えてもらったのだ。この技術を家に持って帰れることは非常に素晴らしい成果だ。
「学院の教育の目的は『たくさんの選択肢を与えて効率の良い方法を選択させる』ことではなく、『その人の生活環境をうまく利用するための知恵を与えること』なのです。」
「でも、文明を維持発展させるためには『沢山の先人の知恵を選択肢として与えて選ばせる』ほうがよいのではないですか?」
思わず反論した俺に、彼女は優しい声で答えた。
「その通りです。文明を強制的に発展させようと思えば、一方的に都合のよい技術だけを提供し続ければあっという間に文明は発展するでしょう。」

「都合のよい技術?」

「技術・・・つまり、あなたの言う『先人の知恵』は無数にあります。与え方を恣意的に操ることで文明は思った方向に進めることができるでしょう。そして、学院にはそれができてしまいます。」

「思った方向に文明を進める・・・」
考えたこともなかった。もちろんそんなことを考える機会もなかった。

「文明の方向とは、つまり人々の考え方の方向性です。これを操ることは洗脳と同じであると考えているのです。」

「洗脳?」

「人の考え方や行動を外部から無理やり操ることです。」

「そんなことができてしまうのか・・・」

「学院はそれを避けるために求められた知識を制限することなく提供する、だけど質問の方法には条件を付けている。そういうことです。」

「簡単には納得できないですね。」
理解しようとして一生懸命考えた。でも、今までしたことのない考え方に頭の中は混乱の極致にあった。

たっぷり時間を空けてからユールは突然話し始めた。
「もう一つ理由があります。こちらのほうが私達にとっては重要なのですが・・・」
「もっと重要な理由?」
「その国、その地方の特色を損なうことなく文化を育むことができるということです。その土地に住む人の潜在的な要望がその国の文化だと思うんです。」
「土地の要望が文化・・・ ・・・ ・・・あー、それはなんとなくわかる。俺の実家はきれいな水の豊かな土地で、水をたくさん使った農作物や生簀で育てた魚が食卓を賑あわせている。そんな時、この土地に生まれてよかったと思うんだ。」
いつの間にか敬語で話すことすら忘れていた俺にユールはにっこり笑った。
「私は、地球に豊かな文化のある星に戻って欲しいんです。」

なんて、なんてまぶしい笑顔なんだぁ~っ。俺はほぼ無意識に立ち上がり教壇に向かって歩いていた。

歴史学の教授が付け加えるように発言した。
「そもそも、歴史的に見ると、まず地域個別の文化があり、それが時代とともに交流することでより多彩な・・・」

「結婚してください!!」
俺は、ユールの右手を両手でしっかり握りしめて叫んでいた。

しばらくの沈黙の後、驚きで目を見開いていたユールは真顔で冷たく言い放った。
「ルナから私達のことは聞いているはずです。それに、そもそも私は結婚するつもりも予定もありません。これは変更の余地もありません。さらに付け加えれば、私自身はこれ以上誰とも必要以上に親しくなるつもりもありません。」
結婚を断られるのはわかる。しかし、誰とも親しくなるつもりがないというのはあまりにも寂しい発言に聞こえた。そして、俺をより興奮させた。
「そんなことは許さない!否が応にも親しくなってもらう。」
「何の権利があって・・・」
目を回しているような彼女の表情を正面から見据えながら続けた
「人として寂しいからだよ。誰とも親しくならないなんて、寂しいじゃないか!」
強い口調になってしまった。手を離し、両手を広げてユールを抱きしめようとした。
「アナタに私の・・・」
その時、突然二人の目の前にこぶし大の金属的な何かが突き出された。
私も驚いたが、ユールも驚いたように目を見開いていた。
突き出されたものを目でたどっていくと、長さ二メートルほどの金属のような色をした木の根でできた杖だとわかった。突き出していたのはルナだった。
ルナは、私を睨んでいた。彼女に初めて感情を見つけ出した瞬間だった。
気がついたように慌ててユールに振り戻ると、ユールは目を伏せていた。
わずかな沈黙の後、小声でしゃべる声が聞こえてきた。
「親しくなる件は少し考えさせてください・・・結婚は・・・あり得ませんが・・・」
そう言って、ユールは杖を受け取り、ルナにありがとうとだけ言って振り返ることも挨拶することもなく教室から出ていってしまった。
ルナはユールの後に付いて行き出口で振り返ると、優しいような困ったような複雑な表情をしたあと、ぺこりとお辞儀をしてユール追いかけて行った。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/11/26(月) 21:16:37|
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