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くわぽんのつれづれ日記

思うが侭、つれづれに書いています。ほぼ、毎日更新中!!

再生した地球にて(2) 第八章

第八章 そして二人旅

昨夜、戻ってきたユールは、「飯にしよう」と一言発しただけで後は黙ったまま食事を済ませ就寝しました。

翌日、ルナセブンから「ユールにライカンスロープの殲滅状況を確認されたので、ムーンに確認しムーンが把握している個体は残っていないと告げた。」と言う通信が入りました。

やはり、赤のユールはそんな危険な存在では無く、私に気を使える人の気持ちが分かる人であると思えました。

ユールは、それまでの情報を元にライカンスロープの最後の群れを自力で探して掃討してきたのです。あの時の私の精神状態では、私が最後の集団の居場所をユールに伝えるのが辛い事であると理解したのでしょう。

朝ご飯を食べ終わって宿の外に出ると、宿の入り口においてあるロッキングチェアに腰掛けて揺れているユールを見つけました。

「よう、よく眠れたか?」
ユールは、いきなり声をかけてきました。
私は、驚きながら、
「おかげさまで・・・」
と返すのが精一杯でした。

ユールは、何の気無く話している感じで、
「昨日な、イゾルデに聞いたんだが、イゾルデは元町長を説得したそうだ、どうやったと思う?」
「さぁ、想像も付きません。」
「あの朝、ユールのローブを羽織って馬にまたがり、『私は王に報告する前に死ぬ訳にはいかないので、ユールに助けを求めないならもう都に向かいます。ユールに助けて欲しいなら門の上から大声で叫べば助けてもらえますよ。では』と言って、町の反対に向かう振りをしたそうだ。」
「イゾルデさんらしいですね。」
「でも、あの台詞は無いよなぁ。」
「聞いていたのですか、私もそう思います。」

丁度その時、元町長の逮捕に向かっていた二人のルナが報告に来ました。
「元町長は、馬車での逃走を図っていたので、『馬車は町の財産であると認定する。無断の持ち出しは盗難と見なし逮捕する。』と申し伝えました。側近が、手短な荷物をまとめ、町長は着の身着のまま、二人で町を離れたのでそのまま見送りました。」
と報告すると、ユールは、
「上々、ありがとう。手間をかけさせたな。」
と労をねぎらいました。私は少し疑問に思って、
「よろしかったのですか?」
と聞いてみました。
ユールは、
「俺だって分かってはいるのさ。あいつは運が悪かっただけだ。とは言え、四十人からの若い兵士を犬死にさせた責任はとって貰わない訳にはいかない。」
「責任ですか・・・では、そう言えば良かったのでは無いですか?」
「反省はして欲しい。しかし、それで自殺でもされたら気分が悪い。俺たちに対する恨みを張り合いにして生きてくれるならそれで良いじゃ無いか。なぁ御曹司君。」
「御曹司?」
そう言って振り返ると、十五、六の成年がこちらを伺って立っていました。そして、口を開きました。
「不思議に思っていたのです。上位の貴族の怒りを買ったなら一家断絶が当たり前です。それも無い、爵位剥奪だけの沙汰など聞いた事が無かった。でも、父は逃げると言った。私は、貴方からの沙汰を承る為に来たのです。」
成年は問われたように話し始めました。
「家族を罪に問う気はねぇよ。しかし、今の家に住み続ける事は出来ねぇな。引っ越して仕事を探せ。」
「仕事なら、兵士の仕事をしたいと思います。」
「なら、町長代理のルナに相談しな。そもそも、自分の財産と町の運営費を分けて考えていたなら、自分の財産から兵士の遺族への補償を除いた分はお前らの取り分だったんだが、分けていなかったみたいだったからな。そうなると、過去の貢献から算出するしかねぇ。精査には時間がかかるだろう。なぁに、ルナ達は人間味はねぇが非人道的な判断はしねぇ。安心して相談しな。な、御曹司。」
元男爵の息子はしばらく考えてから、
「御曹司ではありません。ニケです。」
「言い名前じゃねぇか、ニケ、風のように自由に生きてみな。」
ニケは、その場から立ち去りました。

私は、どうしても聞かずにいられなかった質問をしました。
「貴方と白のユールの考えは同じなのですか。その・・・ライカンスロープについて・・・」
赤のユールは少し考えてから、
「白のユールは俺と入れ替わるときに条件をつけやがった。条件は三つ、一つ目は、ライカンスロープを全滅させる事。二つ目は、ネストの奴らに手を出さない事。三つ目は、ライカンスロープの掃討作業をお前に見せない事だ。」
「え?」
「くだらない事を考えている白に俺は言ってやったんだ。『俺の仕事はネストに住んでいた全ての生物を全滅させる事だ。だが、お前の顔を立ててネストには手を出さないでおいてやる。くだらない事を言ってねぇで俺に代われ』ってな。」
「つまり・・・」
「答えになったか?まぁ、三つ目の約束は破っちまったかな。後で怒られるかもな。」
「そんな事は・・・ない・・と思います。」
「そうか、良かった。ところで。」
「はい」
「俺は、ネストの始末についてルナフォーの後任を決めたらネストに挨拶だけして旅に出ようと思っているんだ。」
「は?」
「その、なんだ、俺は外世界になれてない。そう思うだろ。」
「・・・まぁ。」
「と言う訳で、付いて来て欲しい。」
「否はありませんが、私にも仕事があります。」
「仕事をしながらでいい。お前の仕事を優先する。」
「分かりました。」

という経緯で私達は、しばらく一緒に旅をしました。

旅の中で赤のユールについていくつか分かった事があります。
赤のユールは、他の二人と違い、物を作るという事をしません。物を壊すこと、喧嘩をする事、生き物を殺す事に躊躇もし無ければ罪悪感も覚えていません。
あえて言えば、
「他人の物は壊さないように気をつけている。」
「喧嘩も物を壊す事も好きな訳では無く、どちらかと言えば興味が無い。」
「戦い方も、武術や武道のように洗練された物では無く、力任せにぶっ飛ばすハンマーのような武器を好む。」
という、ある意味とても豪快なものでした。

それとは別に、意外だったことがいくつかありました。
一つ目は、殺生に罪悪感を感じない人格というのがとても重要だということです。黒も白も結構罪悪感にさいなまれる性格をしています。特に白は、いつも必要以上に罪悪感を感じる性格なので、必要であれば私が代わって率先して手を汚すようにしているほどです。
今回の事態収束のために、この新しい人格は、間違いなく必要に迫られて現れた人格である事が分かりました。

二つ目は、この新しい人格は、自分では全く物を大事にしないくせに、何かを大切にしている人を見ているのが好きだという事です。ある日、子供を助けたお礼に小さなぬいぐるみを受け取った彼女は「これは大切にしないといけないな」と言い出しました。私が何故そう思ったのか聞いたら、「あの子が大切にしていたものだから」と答えたのでとても驚きました。
まぁ、そういう人だから白が信頼して任せる気になったのかも知れません。

そして三つ目が、今更の情報だったのですが、この新しい人格が発生した時期です。本人によると、もう百年前からいたと言うではありませんか。本人が言うには、
「俺が起きているときはいつも白は眠っていたんだ。」
と言う事で、どうやら黒が起きているときだけ起き出しては色々教わっていたようです。その中で、他の人格の運動野や言語野を活用する方法を身につけたそうで、自分が表に出なくても直ぐに肉体を動かせた事も話す事が出来た事も納得がいきました。

・・・

「なぁルナ、お前はどうしてそんなに人間っぽいんだ?」
ある日突然、ユールがそんな質問をしてきました。
「どういう意味でしょう?質問の意味が理解不能です。」
「お前は、他のどのルナよりも人間っぽいんだよ。」
「どうなんでしょう、自覚したことがありません。私は他のルナと行動することが少ないですしね。基本的に、ユールのお守りが私の主な仕事です。主に白のユールですが・・・」
「そうか、じゃぁ、白のユールに感謝しないといけねえな。お前と旅ができて楽しかった。今度出てきたときも頼んだぞ。」
「今度?」
「あぁ、眠くなってきた。俺はしばらく休む。白に変わるよ。」
「わかりました。今度出てきたときもよろしく願いします。・・・すぐに乗り物を用意します。チャンバーに急ぎましょう。」
「すまん、俺は持ちそうにないや。白によろしく。」
そして、ユールはいきなり崩れ落ちました。
私は慌てて乗り物を呼び寄せました。超音速で。
乗り物にユールを乗せると、服を全部脱がせローブでくるんで白のユールの家に急ぎました。
体の変化は始まっていましたが、小さな体から大きな体になるため、素材が足りません。
裸にしたユールをチャンバーに突っ込んでふたを閉め、栄養たっぷりの液体で満たします。
早くても三十分といったところでしょうか、白のユールの服を用意しながら赤のユールとの旅を振り返っていました。
もう、あれから十年も経っていました。

-おわり-
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  1. 2013/12/04(水) 12:32:19|
  2. 再生した地球にて
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再生した地球にて(2) 第七章

第七章 一番いやな後始末

ユールは、夕方には、もう動き回るのには支障が無いくらい回復していました。
「ルナ、丁度良かった、明日から掃討作業に入る。」
「ムーンの監視情報は確認しています。今現在、五つのグループに分かれているようです。」
「あと、集められるだけのルナとアルテミスを集めたい。どうすれば良い?」
「治安維持ですか?」
「そう、選挙までだな。イゾルデには王都に戻って王への報告と必要な人員の手配を頼んだが、足り無いだろう。ルナフォーの飛行機を使って貰う事にしたが、時間もかかるしな。」

私の経験からすると、このユールは規格外です。白の時は身体の動かし方も知らなかったのでしばらくベッドから起き上がる事も出来なかったほどです。会話も時間がかかりました。
でも、赤のユールは生まれた瞬間から両手利きで、日本語だけなら会話も出来て、知識も判断力も十分に備えているのです。

「・・・第二級 優先命令を発動する事を提案します。」
私はしばらく考えてから回答しました。
「するとどうなる。」
「ルナの・・・兄弟の各(おのおの)の判断で、特級、第一級の命令に相当する活動中でないものが集合します。ルナワンは第一級命令で学園に釘付けですが、そのほかの半数程度が集まると思います。」
「ドイツのルナに動かれると困るが。」
「動くなと指示を出せば良いと思います。もっとも、動かないと思いますよ。王への情報パイプ役が第一級命令相当と判断するはずです。」
「その命令を出すにはどうすれば良い?」
「私に、『第二級 優先命令を発動する』と宣言すれば終わりです。」
「第二級 優先命令を発動する。」
「はやっ。」
思わず、笑ってしまいました。
私は、ムーン経由で全ての兄弟に命令を伝達します。町の治安維持、元町長への対応、選挙の準備、実施。
ムーンから最長一ヶ月の活動期間が提示されました。一ヶ月間持ち場から離れられる者だけが集まる事になります。
直ぐに回答が来ました。
「回答が来ました。ルナ五人、アルテミス一五〇人、治安部隊セレネ五〇人が到着します。」
追加の情報がどんどん来ていますので、ユールに伝えていきます。
「ルナ五人の到着は明日、アルテミスは一週間以内に全員集まります。セレネの到着は三日後です。私以外の兄弟は正装の簡易鎧を身につけて集まるはずです。」

「セレネって何だ。聞いていない。」
治安部隊セレネは警察官の能力と判断力を訓練されたアルテミスです。と言っても、武装警察程度の能力です。ムーンの配下にいて、普段は休眠状態になっています。休眠状態の寿命は二五〇年活動状態で二〇年。休眠からの覚醒は一週間かかります。どうやら、今回の最初の騒ぎで覚醒作業に入っていたようですね。既に、月から発進しています。
私は詳しく説明しました。

「わかった。明日、ルナ二人に元町長の身柄確保と財産の差し押さえを指示してくれ。もし、身柄確保に向かう前に手に持てる程度の財産を持って逃走を試みるようならそのまま逃がせ。馬車などを使うようなら泥棒として逮捕しろ。」
「分かりました、人選は相談して決めておくように伝えます。」
「イゾルデが戻り次第、選挙の公示をする。選挙が終わるまで町の機能が維持されるようにして欲しい。」
「では、ルナの一人を町長代行に指名して町の機能を維持しましょう。」

「それと、フランス語を覚えたい。辞書ってあるか。」
「アルテミスに聞いてみます。・・・一時間後に持ってこれるそうです。」

アルテミスが辞書を持って来たら、先ず、発音記号の読み方を聞かれ、いくつかの単語の意味を聞かれました。その後、一時間、黙って辞書を読んでいたユールが顔を上げると、フランス語で
「良し、辞書に書かれている内容は覚えた。後は今の言い回しを覚えれば完璧かな?」
と話し始めたので、私はびっくりして目をぱちくりしてしまいました。
「た・・・たぶん。」
そう答えるのが精一杯でした。私は言語モードをフランス語に変更しました。

「服を買いに行くぞ。」
「白の服は気に入りませんか?」
「この服は、着るのが面倒くさそうだ。それに、修復がまだ終わっていない。時間がかかるようだ。」
確かに、燃えてしまった部分の修復は殆ど終わっていないのでローブの下は片方の肩を抜いた様な状態になってしまっていました。

宿の人に服を買えるお店を聞いて出かけました。
服屋に着くと、ユールは動きやすそうな赤と黒のズボンと上着のセットを選び、私は試着を手伝いました。ローブを脱いだユールは、もう黒髪が肩までのびでいました。目で見る分には、傷は完全に消えていました。
「うん、気に入った。これにしよう。あと、履き物も欲しいな。」
ユールは、試着した服を着たまま、ローブを私に投げると、試着室を出て履き物の物色を始めた。気に入った物を見つけると、片っ端から試着して行きます。着る物に頓着しない白のユールには見られない行動です。私は、選んだ物の代金を払いながら後を追いかけました。

髪飾りまで買って身だしなみが整うと、ユールは落ち着いたように
「帰ってご飯を食べよう。」
と言いました。

夕ご飯を食堂で食べながら、ユールは明日の予定について話し始めました。
「明日のライカンスロープ掃討についてだが、ルナは近くまで案内してくれれば良い。後は俺がやる。」
という突然お申し出。意図が汲めず困っていると、
「お前は離れたところで待っていてくれ。」
と説明ともつかぬ説明です。
私は反論してみました。
「私達の間に秘密は意味がありませんよ。」
「理解して欲しいのだが、俺の仕事は綺麗な物では無い。見て欲しくないというのが本心だ。隠したいのでは無い。」
「私にも見て欲しくないと?」
「・・・人間としての本能の部分だな。理由も知って欲しくない。」
私は、本当の理由を推し量ろうとしましたが、該当する事柄が多すぎて特定出来ませんでした。
「・・・分かりました。指示通りに。」

その翌日、ユールは白のユールの為に用意されていた武器を身につけ、私の案内でライカンスロープの集落を巡りました。
確認されているだけで五ヶ所。高高度無人偵察機の解析では拡散は確認されていません。
早朝、朝ご飯を食べる前に宿を出て、私はお水と焼き菓子を用意していましたがユールは何もいらないと言って手ぶらで宿を出ました。
最初の集落まで二時間ほどでしたが、五〇〇メートル手前で、
「後は気配で分かるからここまでで良い。」
と言って、森の中に入っていきました。程なく、白い閃光と高出力イオンバーナーで肉を一気に炭にしたような臭いと、僅かな煙が立ちました。ユールは、「終わった、次」と言葉数もすくなに次々と回っていきました。三回までは、それで済んでいました。

昼過ぎです。最後から二番目の集落は、畑の真ん中にいました。五匹の小さな集落だとムーンは情報をくれていましたが、残念ながら私にも全体の構成が分かってしまいました。雌の成体が二匹、まともに歩けない程小さな子供を含む三匹の幼体、成体の一方は妊娠しているようでした。
私の動揺した気配が相手に察知されてしまいました。一匹の成体が攻撃態勢をとっています。
「ルナ、もう良い、急いで町に戻って、ルナフォーのアルテミスに痕跡の回収を依頼してくれ。」
私は、ユールがこの群れも殲滅する気なのだとわかり、思わず叫んでしまいました。
「いけません。他に方法は無いのですか?」
ユールは、静かに、残念そうに告げてきました。
「成長すれば、一匹で町を全滅させられる恐れがある。町に住む人類がこの生き物に対応出来るようになるまで十五年はかかるだろう。その間にいくつの町が滅ぶと思う。出てくるのが早すぎたんだ。元は同じ人類だとしても、もう、同じレールには戻れない。議論の余地も憐憫の情をもよおす余裕も今の俺達には無い。・・・いけ!!」

私は、逡巡しましたが、反論の余地が無い事は最初の戦いの時に理解していたはずでした。感情に流されないようにと心に言い聞かせて、町に向かって走りだしました。後ろで何が起こっているのか、考えないように、振り向く事も、閃光が目に入る事も嫌うように真っ直ぐに門を目指して。
・・・でも、町に着く前に、目から涙があふれてきていました。どんな感情によって涙が流れているのか、私には理解する事が出来ませんでした。

私は、門に戻ると、ルナフォーのアルテミス達に私達がライカンスロープと戦った痕跡の内、弾丸やナノマシンなど有るべきでないものを回収するように指示しました。

ライカンスロープの弔い方については、元々同じフランス人である事を町の人に説明し、何とか教会の墓地の片隅に埋めてもらえるように話が通りました。

ユールは夜まで戻りませんでした。

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  1. 2013/11/29(金) 13:10:19|
  2. 再生した地球にて
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再生した地球にて(2) 第六章 (2/2)

「あぁ、腹減ったなぁ。」
私が扉を閉めていると、ユールが呟きました。
イゾルデさんに通訳しながら、「そうか、赤のユールの初めての食事か」と思い至りました。
生まれて初めての食事は大事です。美味しい物を召し上がって頂かなければ。
私は、自分で料理する事に決めました。

ユールとイゾルデさんにそう伝えると、残った素材をまとめていたアルテミスにユールの世話を任せ宿のキッチンに走・・・ろうと思いましたが、足の筋肉が痛くて走れなかったので歩いて向かいました。

事情を話してキッチンを貸して貰う事と、食材を提供して貰う事に成功しました。
ローブをラックに掛けると、食材の品質を一通り確認し、スパイスとソースを一通り味見し、キッチン裏に有る菜園のハーブの香りを確認しながらメニューを考えました。
時間はかけられません。鶏一羽、これをトマトとハーブで煮込みましょう。牛肉をひとかたまり、これはこんがり焼いて野菜とソース、じゃが芋の丸焼きと頂きましょう。鴫(しぎ)や雀もありましたが、雀を甘辛く焼いて添えておきましょうか。
主菜はパンを少し湿らせトーストにしてちょっと味付けしましょう。パンは上等の白パンです。個人的にはライ麦パンも好きなのですが・・・あれはアメリカ料理ですか・・・。
所要時間は元気なときで四十分ですね。ざっと十人前の量です。頑張ります。

・・・

料理は、何と三十分でできあがりました。宿のシェフと女将さんが手伝ってくれました。
オーブンなどは、いつも暖めてあるという事で直ぐに使えました。お湯も沸いていました。流石は料理店です。・・・当たり前ですか。そうですか。
シェフは、私の使う先文明の調理技術のいくつかを感心しながら見ていました。私は、独り言で説明しながら調理しましたので、いくつかは盗んで上手に使ってくれる事でしょう。

私は、宿の人に手伝って貰って、料理をユールのいる部屋に料理を運びました。
すると、宿の人の手配でティーテーブルがいくつも並んでいて、椅子も多めに並んでいました。
そんなに広くも無い宿の部屋に食事を全部並べられるように頑張ってくれたようです。

料理を並べ終わったとき、新しいお客さんが現れました。

自警団の団長さんと、何と私が最後に撃ったライカンスロープの下敷きになった兵隊さんでした。
私は、「丁度良かった、一緒に食事しましょう。」と言いながら、アルテミスに検疫機材の手配をお願いしました。
ライカンスロープが未知の病気を持っていた場合、感染している可能性が一番高い人ですからね。後で何とかしなきゃとは思っていたのです。

兵隊さんと団長さんは、お礼に来たつもりだったようですが、食事の誘いに応じてくれました。

ユールは、右半身はとても人に見せられる状態では無いので、失礼してローブのままでベッドの上で食事する事になりました。
「まだ、右手の神経が繋がらないな。」
とユールが愚痴っていましたので、
「食べさせてあげましょうか?アーンって。」
と冗談を言ってみると、
「いや、左手で食えるからいい。」
と素っ気ない返事が返ってきました。
「左利きなのですか?」
と聞いてみると、
「両手、同じように使える。」
と意外な返事が返ってきました。
私は、料理を取り分けて、片手で食べられるように、大きなお肉は一口大に切り分けて大きめのお盆にのせてユールの膝の上に置きました。
ユールは、
「おっ、旨そうだなぁ。」
と言い、「頂きます」と挨拶をしながら一人で先に食べ始めてしまいました。
「うん、旨い。」
私はその様子を嬉しく思いながら、テーブルに戻りました。

一緒に食事する方々には最低限の説明が必要ですよね。
と言う訳で、ユールにはいくつかの人格があって、人格ごとに見かけも能力も異なる事、今のユールは日本語しか話せない事を説明させて頂きました。

ユール以外のみんなは、空いているところに適当に座り、雑談をしながら食事を始めました。

驚いた事に、アルテミスは、ユールの隣で器用に同時通訳をしていました。ルナフォーのアルテミスは、飛行機の添乗員をする事があるので、同時通訳も出来る訓練を受けているようです。知らなかった・・・。私より上手です。

一緒に食事をする事になったのは、イゾルデさん、宿の女将、シェフ(宿の主人)、自警団の団長さんと兵隊さんです。

自警団の団長さんは、学院のスタッフがライカンスロープの死体をどうするかを指導していったと教えてくれました。学院のスタッフかユールのスタッフ以外は死体に触れない事、勿論、血液にも可能な限り触れない事、触れた者は戦闘の後に同じ建物の中など一カ所に集まってしばらく滞在するように言われていた事、血液に触ったときの処置の仕方まで指導された事を教えてくれました。
学院のスタッフは、最低限の防疫を行おうと考えてくれていたようです。
そして兵隊さんは指導された処置で血液を流してからここに来たという事でした。

私は、食事の後で検査して問題なければ直ぐに帰れる事を伝えました。兵隊さんは少しでも光明が見えた事を喜んでくれました。

ついでに、私の武器についてしつこく聞かれましたが、先文明の遺産で通す事にしました。

女将さんとシェフは、私に料理についてしきりに聞いてきました。異国の料理もあるので興味があるのでしょうね。でも、決まりであまり教えられないので、独り言なら言える事もあると、いくつかの料理の秘訣・・・と言っても、私の好みの調理法について独り言を呟きました。
シェフは、食事をしながら、懸命にメモをとっていました。アルテミスは明らかに私を睨んでいました。ユールは通訳されて状況を理解しているはずなのに、楽しそうに「それくらいで目くじら立てんなよ。」と言いながら笑っていました。

やがて、食事も終わり、検疫機材が届いたので、アルテミスと一緒に空いている部屋で兵隊さんの検疫を行いました。一時間少々の検査の結果、陰性。問題なしという結論になりました。
運良く(?)ライカンスロープの血液が僅かに残っていたので、マイクロウィルスやレトロウィルスについてもある程度検査する事が出来ました。いくつかの部位のサンプルもとらせて貰ってもしも問題があった場合、本人がいなくても検査出来るように準備して、とりあえず今夜は宿に泊まって貰うことにしました。

午後になり、私のアルテミスも到着したので、町の中と町の近くのライカンスロープの死体を調べる事にしました。
兵隊さんが血液を洗い流した水と拭った布の入った樽も検査の対象です。

結論から言うと、ネストに残っていた人たちも、ライカンスロープ達も問題になるほど危険なウィルスは保菌していませんでした。レトロウイルスも既に残っていない事が分かりました。
逆に、ネストの人たちにはネストの人たちが抗体を持っていないウィルスに対抗する為のワクチンを接種して貰う事になります。全てのワクチンの接種が終わるまでに半年近くかかります。その間に外で生活する為の教育を受けて貰い、外の世界の技術水準に合わせた生活の仕方と金銭感覚などを身につけて貰います。

でも、本当に問題なのはそんなに先の事ではありません。残ったライカンスロープをどうするか、あと、町長を退任させた後の町の治安維持と死んだ兵士達の遺族の生活の補償ですね。

夕方まで調査して大体の結論を得た私達はユールの待つ宿に戻りました。兵隊さんには、もう帰って良いと伝える事を忘れてはいけませんね。安心して家族の元に帰って頂きましょう。

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  1. 2013/11/18(月) 12:16:54|
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再生した地球にて(2) 第六章 (1/2)

第六章 短い戦闘の後

私は、小走りにユールのもとに向かいました。

既に、三基のオートキャノンが塀の上に落下し、据え付けられた状態になっています。学院は、オートキャノンの設置を予想し、大気圏突入から直接設置出来る場所を数ヶ所準備していました。御陰で三基は大気圏に突入し、パラシュートとワイヤーアンカーで人手を煩わせる事無く設置が完了しました。

オートキャノンが設置されれば、少数のライカンスロープは恐くありません。索敵距離も長いので、森の入り口までは補足しているはずです。

私は、腫れ上がった筋肉をローブのナノマシンを治療モードにする事で何とか動ける状態に維持してユールの元に向かいました。

ユールは、さらに数匹と「いつもの」武器で交戦した様でした。ライカンスロープの焼け残りのような死体が五匹ほど増えていました。
ユールの身体は、肋骨の隙間は膜が出来て、横隔膜も最低限修復されていましたが、右半身はピラニアに食われたように殆どの筋肉が焼けてしまっていました。まだ、肘から先も修復出来ていません。

ユールは、ニカッと笑って、
「良くやった、頑張ったな。」
と言ってくれました。
私は、かなりびっくりしましたが、気が付くと、
「ありがとうございます。」
と返していました。

私は、町から、馬に乗った人が一人走ってきているのに気が付きました。イゾルデさんです。

私は、傷を隠す必要があると考え、自分の治療を諦めて、自分のローブをユールに被せ、治療モードを起動しました。
ユールは、息も絶え絶えに、
「すまない。」
と言ってきました。ムーンの予想からは全く想像も出来ない遣り取りが続いて私はどうして良いのか判らなくなっていました。
(もしかすると、このユールはそんなに気性が荒いわけでは無いのかも知れない。)

イゾルデさんは、私達から少し離れたところで馬を下りると、
「これ、必要ですか?」
と言って、昨夜貸したローブを差し出してくれました。私は、喜んでそのローブを羽織り、治療モードを起動しました。
これで、二人とも人並みの速度で歩けそうです。

私は、ユールの肉体を修復する為の骨材や筋肉素材を学院から取り寄せる手配をして、ユールを左側から支え、町に向かって歩き始めました。幸い、右足は大やけどくらいで済んでいるようです。

イゾルデさんは、ユールの状態を見てしまったのか、馬に乗れと言う事も無く一緒に歩いて付いて来ました。
ローブの助けがあったとしても、馬の揺れに耐えられる状態ではありません。

私達が言葉少なにゆっくり歩きながら町の門をくぐったとき、町長のいやみったらしい笑顔が迫ってきました。
「いやぁ。助かったよーありがとーやるもんだなぁ。がはは」
私は、怒りがわき上がるのを感じました。その時、
「ルナ、傷に障る。とりあえず休もう。」
とユールが優しく声をかけてきました。
ユールはフードの中で町長に見えないようにニカッと笑っていました。
私は、その顔を見て落ち着きを取り戻し、
「宿を、傷の手当てをしないと。」
とだけ喋りました。
すると、イゾルデさんが、
「私の泊まっているところが近くに、隣の部屋は空いていたはずです。」
と言って先導してくれました。
私達は町長を置いてけぼりにして歩き出しました。
「お・・おい。」
町長が声をかけてきましたが、無視しました。

ユールは、きっと私が怒りを感じて筋肉をこわばらせたのを感じて私を落ち着ける為に休もうと言ったに違いありません。そうだとすると、やはり、赤のユールはそんなに好戦的な人物では無いのではないでしょうか。

私達は、宿の部屋のベッドにユールを横たえ、ユールが小さくなった際に身体から出てきたはずの肉体の素材を探しました。が、何処にもありません。
ユールは、
「あーあれかぁ。全部燃料にしちまったよ。」
とあっけらかんと言い放ったのです。

いよいよ、学院からの荷物待ちです。と思ったら、思ったよりも早く骨材や筋肉素材が届きました。
何と、ネストの部隊が身体一つ分持って来ていたのです。輸送用の小型飛行機体(エアバイク)は見られてしまいましたが、この際、仕方有りません。私は、腕の骨材を取りだし、肘から下を切り離して焼け落ちた部分に取り付け、その周りを筋肉素材でぐるぐる巻きにして固定しました。また、筋肉が焼け落ちた部分にも筋肉素材を巻き付けていきます。

ユールの身体は、素材が無い場合、空気や土から素材を作り出す為、修復に恐ろしく時間がかかります。ユールはその間痛みに苦しみ続ける事になります。筋肉素材や骨材はナノマシンが加工しやすいように作られた肉体の素材です。中には、休眠状態のナノマシンも織り込まれているので、括り付けると、直ぐに肉体の修復が始まるのです。

イゾルデさんも頑張って手伝ってくれました。イゾルデさんは、流石に辛そうな顔をしていましたが、ユールは女性同士で良かったと言って笑っていました。

そこに、来客がありました。町長です。
私はユールにローブを着せると、身体を起こさせ、足に布団を掛け、フードを浅く被せました。

ユールの意思を確認してから扉を開けました。

『やぁ。ユール殿、良くやってくれた。・・・あれ?ユール殿じゃ無い?』
ととぼけた事をフランス語で話し掛けてきた町長に、通訳もしていないのに
「誰もお前なんか助けてねーよ。」
とユールが日本語で返しました。私は、
「今の、翻訳するですか?」
と聞いてしまいました。ユールは、
「当然だ。俺の発言はそっくり訳せ。」
と言って来るではありませんか。私は、スラングバシバシでニュアンスまで可能な限りそのまま訳しました。
『えっ?いや・・・あの・・・』
「町にお前一人だったら、俺は戦わないで眺めてたね。お前が食いちぎられるところを。」
難しい翻訳です。シェアの能力全開です。発音難しぃ。
『あぁ・・・オホン。それで、色々考えたのですがな。私の妻になって頂けないですかな?』
「求婚されています。」
こっちは、翻訳する気も起こりません。簡単に伝えます。
「なぁるほど。結婚しちまえば妻が夫を助けるのは当然で男爵の権威に傷が付かねぇと、そういうことか。」
頑張って訳します。
『はっはっは、冗談が上手ですな。』
「誤魔化しています。」
ユールは、ため息をついてから、
「帰れクズ。お前の男爵の地位を剥奪する。王に伝えておく。新しい町長は選挙で決める。」
と言い放ちました。
私が翻訳し終わると、
『なっ何の権限があって・・・』
と狼狽していましたが、ユールは、私が翻訳する前に、
「お前の家にあるはずの爵位授与の銅板のサインが誰のものか、見直してこい!!」
と言い返していました。
私が翻訳し終わると、町長・・・いいえ、元町長は這い這いの体で元は自分の家であった場所に戻っていきました。

そうでした。二百五十年程前、貴族制を復活させるとき、教会が既に無く法王もいなかったので、国の形を作るのに尽力した黒のユールが爵位を認める形をとったのでした。ただ、そのままだと、国王がユールの下にいる事になってしまうので、同等である事を示す為に、仕方なく、公爵の地位を請けたのでした。

それ以来、ヨーロッパでは、爵位の与奪の権限がなし崩し的にユールに与えられているのです。

と言う事は、この件は、黒のユールの入れ知恵ですね。
まぁ、何となく気分がすっとしたので良い事にしましょう。

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  1. 2013/11/06(水) 23:54:47|
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再生した地球にて(2) 第五章 (2/2)

僅かな時間が流れ、ライカンスロープ達が私達の戦闘圏に入ろうかというタイミングで町に設置されたオートキャノンのマイクがその声を拾いました。
『灰色のユール、私を護ってくれ、助けてくれ。』
と。
ユールははじかれるように後ろを向くと、ナノマシンの力を借りて大きな声で叫びました。
「私は月からの使者ユール。前進を止めよ。それ以上進むならこのユールがお前達を全滅させるだろう。」

その声は、粒子状の音となって四キロ離れた場所でもはっきり聞き取れる音量で届けられました。粒子状の音は、蝉の鳴き声のように少ないエネルギーで大きく聞こえる音を遠くまで届ける事の出来るものです。綺麗に反射して音が反響しやすいのが難点なのですが、こんなに見通しの良いところでは都合の良い方法です。

ライカンスロープは言語を解すると分かっているので意味は通じたはずです。目の前の一団は一瞬動きを止めましたが、やがて、三匹が飛び出してきてユールに襲いかかりました。ユールは流れるような動きで杖の中から刀を抜き出すと襲いかかってきた三匹の前でクルッと回り、気が付くと三匹の向こう五メートルほどのところに立っていました。
三匹のライカンスロープは頭と身体が離れて転がりました。
この期に及んで血しぶきを浴びたくないなんてユールらしいけど、今回はそうも行きそうにありません。

「みんなこうなりたいか!!」
再び、大音量が響きました。
私は、これでこの戦闘が終わってくれる事を期待しました。もしかすると、ユールもそうだったのでは無いでしょうか。しかし、ライカンスロープ達は一斉にユール目掛けて襲いかかってきたのです。
「三十秒」
私は呟き、直ぐにニトロガンを抜き去り、同時にルナフォーにオートキャノンの大気圏突入を指示しました。オートキャノンは計算完了から到着まで最短で五分。最長百四十分。途方も無いほど長い時間です。しかし、到着したとしても今の状態で町から攻撃すると敵を引きつけてしまう恐れがあります。町には一匹すらも侵入を許す訳にはいかないのです。今は二人で持ちこたえる必要があります。
今、私のニトロガンに装填されている弾はライフル弾が二十発、貫通力のあるテフロン弾が二十発、貫通し無いという特徴を持つ柔らかいシルバーチップが二十発。私は迷わず、杖を地面に投げ、両手でライフル弾とテフロン弾を可能な限り連射しました。一匹目は必ず致死ダメージを与える必要があります。確認出来ただけで貫通弾で動きを止める事が出来たのは五匹。私は十五秒で四十五匹を仕留める事ができたのでした。
ユールは二十匹を相手にして既に二十四匹を倒していましたが、刀は刃こぼれが無くても切った相手の油が付いて切れ味が悪くなるものです。相当に不利な状況にあるのは間違い有りませんでした。
残った弾数で襲いかかってくる敵を何とかするのは不可能に見えました。しかも、弾倉を交換する時間を敵は与えてくれません。ローブの耐久力にも限界があります。そう思った瞬間、ユールは何故か私の足下にいました。しゃがんだ状態から身体を回し私のおなかに足を当てました。蹴られる。私は全神経を集中して蹴られる部分の筋肉を固め、受け身の姿勢をとりました。
「ごめん」
ユールの声が耳に届きました。

次の瞬間、私は宙を舞っていました。ユールは私を正確に四十五度の角度で斜め上に蹴り上げたのです。宙を舞いながらユールを見たとき、ユールは私の杖と自分の杖を重ねて爆発させていました。
と言っても、杖のナノマシンの結合を解き、電気の力でナノマシンを拡散させるだけの行為です。威力はありません。何をしているんだろう。そう思った次の瞬間、ルナフォーのオートキャノンが電磁波モードでユールに照射されました。通常はオートキャノン同士で電力供給に使われるモードで、目に見えるものではありません。しかし、このとき、オートキャノンの砲身が特殊な形状で展開されます。馬車の幌が吹き飛ばされ、中のオートキャノンが特殊な砲身を展開したので分かったのです。ナノマシンは、電磁波をうけて形状を変化させ、地を這う炎の渦と化しました。ナノマシンはライカンスロープにまとわりつき、異形のもの達を激しく焼き、燃え尽きていきます。
この攻撃は、理論上、可能である事は白のユールも知ってはいました。しかし、ナノマシンを制御するには、ユールがナノマシンに素手で触れている必要があり、しかも、その部分はナノマシンの濃度が濃くなります。当然、ユールの被害も無視出来ないものになります。

ユールは、私をこの爆炎から護る為に爆炎の圏外に私を蹴り出したのでした。
私は、十五メートルほど離れたところに転がり、やっとの思いで受け身をとり、状況の確認を始めました。
爆炎に飲み込まれたライカンスロープは約四十匹。残った十数匹の一部は森に向かって走っていますが、残りは町に向かっています。しかも、門を目指しているのでは無く、東に回り込むように移動し、既に一キロ以上離れた位置にいます。戦闘に集中していて気が付きませんでしたが、最初から町に向かって走っていた一団がいたのです。
オートキャノンの到着はあと十二分後、ライカンスロープは十分もしないで塀に到着してしまいます。
戦闘が始まってまだ一分も経過していません。しかし、既に半径十メートルの焼け野原が広がっています。私はローブの防御力を信じてユールの元に向かいました。ユールの右腕があった場所は肘から先が焼け落ち、ローブも三分の一が無くなっていました。ユールの頭部の半分は焼け、長かった髪の毛は跡形もありません。損傷は間違いなく肺まで達しています。普通の人間なら即死です。
「ユール!!」
駆け寄った私に、出るはずの無い声が聞こえました。
「町に向かった群れを追え!」
ユールは肺に残っていた最後の空気で私に指示を出したに違いありません。肺に達した損傷が回復するまではもう空気は吸えないでしょう。いかなユールといえど、空気を吸えないと苦しいのです。

私は、肉体から感情があふれ出すのを感じました。
私としては、初めての経験でした。

私は、あふれてくる涙をぐっとこらえ、肉体のリミッターを解除し、町に向かった一団をおいました。私は、肉体のリミッターを解除したときの最大時速が四十キロに達します。あとから襲ってくる激しい筋肉痛と関節の悲鳴は覚悟しなければいけませんが、この状態を五分以上は維持出来ます。彼らの移動速度が最大で時速二十キロ程度のようなので、五分で縮められる距離は最低でも三百三十三メートル。彼らの全速力はそんなに保たないので、五百メートルは縮められるはずです。ぎりぎりロングバレルの射程内です。
オートキャノンが先頭から狙ってくれれば、塀への到着を防げる可能性がまだあります。
彼らが狙っていると思われる塀の低い部分までの距離は二キロを切っています。
塀の上の兵士には槍で応戦して貰う必要があります。都合良く、私のニトロガンに装填されている弾は貫通の危険の少ないシルバーチップ。ライカンスロープに命中さえさせれば、塀の上の兵士に被害は無いでしょう。そう言えば、このシルバーチップの準備はユールの指示によるものでした。ユールはこの事態を予想していたのでしょうか?私は、ライカンスロープ(狼男)には銀の弾丸(シルバーチップ)と言うしゃれかと思っていたのですが・・・。

門の外のオートキャノンは、遮蔽物の無い状態のライカンスロープを時々狙撃しているようです。少し高く浮き上がったライカンスロープが打たれているのが見えます。

私の関節が悲鳴をあげ始めたとき、最後尾の一匹が射程に入りました。私は、ニトロガンにロングバレル(延長砲身)を装着し、最後尾の一匹の頭を狙いました。

弾着まで約二秒予測射撃開始。
私はスキップの要領で両足を同時に地面に着き、両手でしっかりニトロガンを握ると、最大出力で発射しました。

二 一 命中!!

さすが!私。と言うか、ロングバレルにぶれは無い様です。
ライカンスロープの移動は予想よりもかなり遅く、時速十五キロを切っていたようです。体力を残して交戦状態には入れたのは良かったかも。

と期待したのですが、ライカンスロープ達は一瞬足を止めたものの、こちらに気づき、全速力で塀に向かって走り出しました。

さすがに息が上がっていて上手く声を出せない私は、大きく息を吸い、地面を蹴りました。

塀はもう奴らの目の前です。オートキャノンは塀を壊してしまう恐れがある為、もう狙えないところになってしまっています。あと四匹なのに。

私は、奴らの先頭が塀に飛びつくタイミングで先ほどの要領で立ち止まり、ライカンスロープを狙撃しました。

そして、また飛び出し、距離を縮めて次の一匹。

疲れが溜まって、弾道がぶれ始めています。

何とか二匹は即死させました。

その時、二匹が同時に塀を駆け上がったのです。
「まずい」

私は、先ず一匹に狙いをつけて撃ちます。弾着を確認する事も無く、もう一匹の予測射撃に入りました。着弾位置は塀の上の兵士のこめかみ!!
私は、予測を信じて発射しました。

「貫通するな!!」

私は、生まれて初めて、祈るという気持ちの意味が分かった気がしました。

兵士は、最後のライカンスロープとともに塀に倒れ込みました。

・・・

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  1. 2013/10/18(金) 12:52:22|
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